Pau Lim-Technique-Top

Vol.7 Paul Lim
すべての人に通じるダーツ解説

2004年4月

練習方法
筋肉を記憶させる反復運動が効果的、ポイントは肘を動かさない。

プロ、アマチュアの区別なくどのプレイヤーでもいつも悩むのは効率の良い練習方法でしょう。私の場合は「筋肉の記憶」ということを大事にしています。そのため朝、起きると腕を上げてセットアップし、リズムをつくってダーツをする腕の動きを試すことを日課にしています。毎日200回、「まっすぐラインを引き、まっすぐ投げる」その点に気を付けて自分の筋肉に訓練を行います。皆さんも長い間、やってみると分かると思いますが、やがて無駄な動きができなくなり、筋肉はごく自然な動きになっていきます。そしてそれを繰り返すと筋肉は忘れないようになります。

その際に特に気をつけて欲しいのは、肘を動かさないということですね。立っているときに上から下に腕を振り下ろすと肘が動きませんが、その腕の運動にかなり近いと思っています。
まずは30回ぐらいから始めて、徐々に回数を増やし、安定して100回以上を毎日行うようになりましたら、数ヶ月後には筋肉は完全にダーツを投げるように進化していることでしょう。

グリップ
もっとも自然に慣れ親しんだ握り方は鉛筆の持ち方。それゆえ個性が出るテーマ。

グリップは人によって、個性や手のつくりによって大きな違いがありますね。特にこれこそが正しいグリップというものはありません。あえて言うのであれば鉛筆の持ち方が一番、自然でしょう。それは長い間、親しんでいるのでダーツを始めて握った時でも違和感がなく、力も必要以上に入りにくく、またしっかり握れるからです。

それとマイダーツを買う際にはこのグリップとマッチしたダーツを買いましょう。少し時間がかかるかもしれませんが、様々な種類を試し、グリップにピタッと合ったダーツを探すことをお薦めします。どんなスポーツでも道具を使うスポーツでは、それを選ぶことは上達の重要なポイントとなります。ただプロ選手にあこがれて、そのモデルを買うのはいかがなものでしょうか。自分に適したダーツをぜひ探して下さい。きっとダーツの奥深さも学べ楽しいと思いますよ。

 

スタンス
ダーツの試合で負担の大きいのは実は足だ。疲れないスタンスを身につけよう。

足が疲れないような姿勢をいろいろ試し、自分の身体を学びましょう。実はダーツという競技は一番負担のかかるのは足だからです。私の場合は右足に体重の80%をかけますが、長い試合の後は足が特に疲れます。それと全体のバランスが大事ですね。ようするに無理に人の真似をしても、自分の身体のつくりが同じとはかぎりません。自分の身体の疲れにくく、動かない自然体を探しましょう。後に説明する肩の向きなどとも密接な関係がありますので、自然体を探すことが上達の道とも言えると思います。

私にとってはスタンスは写真のような形が一番疲れにくく、ダーツの腕が運動しても動かない自然体なのですが、皆さんはいかがでしょうか。


肩の開く角度は理想は90度だが無理なようだったら自分の身体に合わせた角度。

肩の開く角度も人によって個性が表れてもいいポイントだと思います。私も常日頃、大事なテーマと考えていますので研究しています。理論的には90度の肩の開きが正しいのかもしれませんが、それは誰もができることではありません。それをこなしているのはフィル・テイラー氏ぐらいではないでしょうか。私の場合も身体の自然体をより重視し、90度にはなっていません。皆さんの場合はいかがでしょうか。90度の肩を試してみて、身体に合わないようでしたら、少し自分にとって楽な方を選ぶことをお薦めします。

肘の高さ
狙うターゲットで肘の高さを変える。肘はダーツ理論で最重要ポイント。

前にも述べましたが、肘という部分はダーツの運動では動きません。それはどんなプロプレイヤーにも共通しています。しかしながら、狙うターゲットによって高さは変わります。上を狙えば肘の高さは高くなり、下を狙えば肘は自然に下になります。肘が動かないことで、ターゲットを狙うことができ、腕のダーツの運動はたえず同じと言えるでしょう。

例えば野球投げのようなダーツでも時々好結果が出せることもあります。しかし、肘が野球のように動くフォームではダーツでは安定して良いダーツを投げるのは難しいと思います。最初は少しきついかもしれませんが、肘は絶対に動かさないで下さい。後々にめざましくダーツが進歩することを確約致します。スポーツにおいては上達するために幾つかの哲学と論理が必要ですが、肘はダーツ理論の最重要ポイントです。

 

テイクバック
いつも同じ場所に引くことは、相当に困難なこと。それゆえ反復練習が重要。

自分のダーツの最終点を筋肉に覚えさせて下さい。これを覚えるために私も最初の練習方法で述べたようなことをしているのですが、それは簡単なことではありません。最終のポイントというのは人によって異なりますので自分で練習の中から探さなければいけません。そして、さらにやっかいなことに筋肉というのは毎日、脳からの伝達が違うため違った運動をしがちです。そのため毎日少しでもいいのですが、同じ運動をするために反復練習が必ず要求されます。

構えて、バックスウィング、フォロースルーということを日々繰り返す以外にダーツの進歩はありません。それを長くやり続けると、きっと自分に適した理想的なバックスウィングの最終点を探すことができ、さらに繰り返すことにより、いつも同じポイントにダーツを引けるようになることでしょう。

フォロースルー
最後まで投げきることはスナップがきくことという意味であり、手のひらは下を向く。

フォロースルーで注意すべき点は最後まで投げきることです。そうすれば、自分がスナップをきかせていることが分かるでしょう。ダーツのスピードは力と弧の大きさ、そしてスナップのきかせ方の要素で決まってきますが、同じ運動を繰り返すためにはスナップという要素はたいへん重要なポイントです。また、手のひらは下を向いているのが自然です。

もし、投げきった後に手のひらが上や横を向いていたら、それは正しい軌道ではないことになります。まったく下を向いているというよりも、下の写真ぐらいが、人の手の自然な動きだと思います。リストをうまくダーツに伝えられるようになれば、思った以上のスピードでダーツはターゲットに突き刺さります。

リズム
どんなスポーツでもリズムは大事だ。それが勝敗を決める鍵だとも言える。

練習方法の始まりから述べているように
1、構える
2、テイクバック
3、スロー

というふうに投げ続けることは、まさしくリズムということです。いつも同じテンポでゆっくたりと投げることを心がけましょう。自分なりのリズムを身につけるのには、かなりの時間が必要と思いますが、このテーマを無視してダーツの上達はありえません。私はゴルフというスポーツも大好きですが、大きなスウィングからパッティングまで大きな要素がリズムです。大いに共通点がありますね。皆さんの中でも他のスポーツを長くやっている人がいると思いますが、どんなスポーツでもこのリズムというテーマが大きな要素であることはご理解いただけるでしょう。私のようなプロダーツプレイヤーにとっては、このテーマがまさに勝敗を決めるといっても過言ではありません。

ハードとソフト
ハードとソフトには何も違いはない。あると思うのは心理的要因。

よく聞かれる質問ですが、私にとっては何も違いはありません。的の大きさが違いますが、私は特別なボードで練習していますので関係ありません。その特別なボードはダブルとトリプルの部分が一般のハードボードの半分の大きさです。それに馴れると一般のハードボードはターゲットが大きく感じられ、ソフトボードはさらに大きく感じられるからです。

また、ダーツの重さの問題がありますが、私はエキシビジョンでよくやるのですが、25gと18gのダーツを3本ずつ同じ距離から投げてもほとんど同じターゲットに集まります。それを分析しましたところ、約5mmの違いがあっただけです。ようするに安定したダーツを投げていれば、どちらも苦にはなりません。

ダーツの飛び方
普段ハードを投げていない人でもハードボードに
投げてみると自分の矢の飛び方が分かる。

ダーツというのは、人によって個人差はありますが、どんな軌跡を描こうとも放物線になっているのが基本です。放物線が大きな人とより直線的な人といると思いますが、たえず同じ軌道を通ってボードに刺さるのが理想的でしょう。フィル・テイラー氏の投げるダーツはかなり直線的ですが、それでも分解写真で見ると放物線が描かれています。ようするに自分の放物線の軌道を知り、その上を狙うということが要求されます。

そのために同じ軌道をたえず描かなければ、ターゲットは狙えないのです。時々上級者で特別な投げ方を1本だけするようなダーツを見ますが、それは個性という部分になると思います。私も時々、特別なケースにおいて特別なダーツを試みることはありますが、普段の基本からは離れた特殊な場合です。

ひとつ提言があるのですが、普段ソフトだけを投げているプレイヤーは時々ハードを投げてみてください。ソフトは絶えずその構造のためマシーンに対してまっすぐに刺さりますが、ハードでは自分のダーツの刺さり方によってその向きを知ることができます。写真のように同じ方向に3本がそろうようになったら、上級者といえるでしょう。

ソフトは本当に楽しいものですが、ハードも時々投げると、さらにダーツが奥深いものになりますよ。それぞれに良い面がありますので両方をプレイしたほうが、ダーツの上達には役に立つと思います。

精神統一
試合で勝つためには矢と精神の両方をコントロール
しなければならない。人生そのもの。

最後に述べなければならないのがこの精神というテーマです。どんなスポーツでも要求されますが、特にダーツという競技においては大きく結果として反映される傾向があります。暫く練習に励み、ある程度ダーツがコントロールできるようになっても、なかなか試合で結果が出ないという経験は誰にでもあることでしょう。それは、ずばり精神が集中できていないということに尽きます。

私にもおもしろい経験があります。まだプロに成り立てで、アメリカではまさに飛ぶ鳥打ち落とす勢いでダーツをしていた頃ですが、英国より試合の招待がありました。渡英する前から本場の英国では勝てないだろうなと思っていたので、案の定第1回戦負けでした。試合をする前から精神で負けていたのですよね。しかし、その後それを克服し、英国出身の選手たちにもどんどん勝てるようになりました。

その経験からも悟ったように、皆さんも対戦する前からけっして負けるという予想や変な観念を持たず、そのゲームだけに集中することをお薦めします。特にソフトダーツでは誰にでもチャンスがあると言っても過言ではありません。ある程度のレベルになれば、私のことを打ち負かすのも可能だと思いますよ。
この精神をコントロールするというテーマはまさに人生そのものですよね。私も悲しい事などがあったりした時に、平常心で試合に臨むことはまだまだできません。そんな意味では人生の経験はダーツに役立ち、ダーツの経験は人生に役立つのではないでしょうか。それ故、今日も私はダーツを投げます。

最後に
日本ダーツがさらに飛躍するために私も役に立ちたいと思っている。ダーツ人生に悔いなし。

アメリカではハードダーツボードが年間数百万面売れていると言われています。そのボードはお店とかですべてが使われているわけではなく、ほとんどが家の壁に掛けられています。日本でもそのようになったらどんなに素晴らしいでしょうか。子供や老人で家族の団欒に、ちょっとパーティーの場などで活用されるようになったら、それこそ本物のダーツ国ということになると思います。私はそんなダーツシーンが近い将来日本で見られるようになることを願ってやみません。

今現在、日本でダーツ界をリードする様々な方面の方々とも協力して私もぜひ役に立ちたいと思っています。ダーツというのはどんなに素晴らしいスポーツなのかということを伝えていきたいと常に思っていますので、何処かでお会いしたら、気軽に声をかけて下さい。

私が尊敬するダーツプレイヤーでバリー・トゥモロー氏がいますが、彼の言った言葉で「私は自分がけっして凄いダーツプレイヤーとは思っていません。また同じく凄い人生の成功プレイヤーでもありません。しかし、人生を楽しんだプレイヤーだということは自負しています」というのが印象深く、心に残っています。