Vol.96 安食 賢一
何歳でも世界チャンピオンになれる

2019年3月号

グリップについて
「感覚的には2.5フィンガー」
グリップについてお聞きいたします。長いダーツ歴の中でいろいろ試して変えていますか?
勿論グリップについては始めた頃から真剣に研究しています。ダーツ歴は18年になったのですが、試行錯誤して今の形になりました。ここ数年は変えていませんね。
形は同じなのですが、ダーツを横で挟むか、上下に挟むかとかはその日の調子で変えています。試合では意識しないようにしていますが、練習ではいろいろ試しています。

4フィンガー、3フィンガーについて
始めた頃は小指を立てて4本で持っていました。グリップはよく指が邪魔してダーツがぶれます。理想は2本で持つことだと思います。でも完全に2本だけで持つのは至難の業ですよね。
そこで2本に中指をそっと添えて握っています。感覚的には2.5フィンガーでしょうか。

多くのプレイヤーがその結果にたどり着きますね。
そうだと思います。しかしその人によって指の形、長さ、力の加減など違うので、グリップは本当に繊細なテーマですね。2本だけでも持つことはできますが、テイクバックとスロー時にぶれます。そこで3本目の支え方が大きなテーマとなります。
グリップは持つということと、いかにリリースするかが両方大事なことですよね?
ダーツを放すことは最重要ポイントです。どう持てば放しやすいのか、そこからグリップの形を追いかけるのも大事です。持ちやすくても放しにくいのでは意味がありません。
放しやすくて持ちやすいグリップをずっと探して来ました。

夏や冬などで気を使うことはありますか?
僕はあかぎれ用のクリームを通年使っています。グリセリンカリ液というもので肌を整えてくれるんですね。乾燥肌なんですが、それを使うことによって季節の問題が出ません。カサカサしないでしっとりします。とても良いので皆さんにもお勧めします。

人のグリップなどは参考にして来ましたか?
それはダーツを始めて2〜3年、何がいったい良いのかと探求していた頃のことですね。やはり海外のプレイヤーのグリップの写真を見て真似たりしていました。
フィル・テイラーのグリップは無理でしたね。独特で難しかったです。トッププレイヤーのグリップは大いに試す価値があると思います。

立ち方
「肘、肩、腰、くるぶしが一直線」
スローラインに対して右、真ん中、左などプレイヤーによって異なりますが、どこに立ちますか?
僕は立った時には肘、肩、腰、くるぶしが一直線になっているのを理想としています。ブルを狙うのでしたら、自分のくるぶしをブルに合わせるような感覚です。つまさきや踵と言う人がいると思うのですが、僕はくるぶしです。
くるぶしがブルに対して左になることはありません。真ん中か右側に位置します。

スローラインの右側に立つことが多いのですね。
その日の調子によりますが、ほとんどそうですね。きちんとスローラインがボードに対して平行になっていれば、センターより右側です。

狙う場所などによって動く方ですか?
僕は移ります。どうしてブルに対して左に立たないのか、というと身体の右にダーツを放すのは窮屈なんです。ですから15を打つ場合には右に移ります。逆に16を打つ場合にはそのまま投げますね。同じように20を狙った後に18を狙う場合は右に移ります。さらにその後20を狙うとなると、18に立った位置からそのまま投げます。

かなり経験値から来ているように思うのですが?
そうですね。1本目で狙うのが簡単なシングルで、2本目で狙うのがダブルの時は最初から2本目の立ち位置に立ちます。

右足と左足の体重配分は?
昔は8:2ぐらいで前傾姿勢でした。ボードに近いほうが良いと思っていました。しかし年齢と共に片足だけに体重をかけて投げることが、きつくなってきたんですよ(笑)。大会では一日がかなり長いですから、今は7:3ぐらいでしょうか。あまり前のめりにならないように気を付けています。

多くのプレイヤーが右足をガッチリ固めて、左足は身体のバランスを取っていると言っていますが同じですか?
僕の場合も同じで、力を入れて振っても身体がもっていかれないように、バランスを取ることですね。体重配分は大事なポイントです。右手で投げるのですが、左手、左足でバランスを取ります。

始動について
「テイクバックを無くした」
昔は写真撮影する際に手と肘を普通に構えていました。それが途中から手を顎に合わせたのが、始動という形に変化しました。テイクバックが無くなりましたね?
そうですね。ある時からテイクバックというのは無いほうが良いという考え方になったんです。腕を曲げきった状態で、親指と人差し指が口の横に当たった位置からスタートすることにしたんです。そうすることによって肘の位置が必ず同じに決まるんです。
曲げきった状態からスローラインに入っていくので、肘から入るイメージがありますね。最終テイクバック位置が決まると安定すると思います。

いつ頃からそのようなフォームに変化したのですか?
アメリカでダーツに挑戦していた時期があったんです。そこでリーグ戦に出ていたのですが米国人はセットアップなんてしないで、凄く早く投げるんですね。ゆっくり時間をかけて投げるのが、申し訳ないような雰囲気でした(笑)。早投げしたほうが良いのかな?という中で身につけました。
セットアップして構えて、前に出すのは多くの動きがありますよね。これは必ず必要なことなのか?と考え方を変えたんです。
これだけ軽いものをこの近い距離で投げるのに、振りかぶるほどの力は必要ではない、という結果に至りました。
またテイクバックを常に同じように引くのは難しいですよね。じゃあ、その部分を省こうということになったんです。最終テイクバックの位置が一番重要だと思うんです。だったらそこから始動するほうが、確実にいつも同じところからスタートできます。
おもしろい理論でしょう?みなさんがやっている工程が半分になるんです。ぜひ試してみて下さい。

その最終点の場所を探すのに時間はかかりましたか?
そうでもないですね。腕を曲げきった状態で、顔に当てるといつもピッタシ同じ箇所で決まります。僕に向いていたからでしょう。
それからは凄く練習しました。カウントアップはいつも1000点以上でしたが、この方法では最初600点ぐらいでしたね。苦労しました。投げ込まないと身につかないので、かなり努力しました。一週間ほどでしょうか。また1000点を超えるようになりました。
新しいことを始めると成績は下がりますが、やっぱりトライしないと次のステップに上がれないと思うんです。この挑戦は僕のダーツ人生において、大事なポイントでしたね。

リリース
「手を伸ばしきれる最長点」
放す位置は2通りあると考えています。
まずは手首を曲げきった状態から、ダーツが下を向くことなく伸ばしきれる最長点ですね。できるだけ長くダーツを持ち続けて放す理論です。リリースポイントが肘の上だという感覚だと、手前、上、先の場合がありますが、この理論ですと必ず一番遠い位置になります。手の長さが変わらない限り、伸びきれる位置は必ず同じなのでリリースポイントが一定します。早く放すのみがミスで、ボードにも近くなる利点があります。
もう一つは最終点から放す位置までが短いとミスが少ないので、できるだけ早く放す理論です。この方法にも取り組んで練習しました。せっかくテイクバックをやめてシンプルにしたのだから、リリースが短いとさらにミスが少なくなると思ったんです。でもこの方法だと瞬発力が求められるんですね。早く放すためダーツに力が伝えにくく、20トップに届かせるには相当なインパクトが必要です。指の力も要求されるため、諦めました。
今はテイクバックのミスが無く、リリースでもミスが少ない最初の理論で投げています。
両方で1000点を超せるようになりましたが。僕には最初の理論の方が合っているようです。
例えば、鉄砲でだと近くを打つのは普通の銃ですが遠くはライフルです。銃身が長い方が遠くまで正確に飛ぶんだと思うんです。手は発射台だと思っているんで、長く持って目標にもっていく方が正しいのかな?と考えています。手と道具を使うので全く違うかもしれないですが、勝手な解釈ですがその方を選択しました。

ダーツの飛び
「回転は意識していない」
ダーツの飛びについては気にしていますか?
自分の飛びは自分が一番よく分かっています。ソフトではボードに刺さった後に揺れています。理想としてはバタバタ揺れずに飛んでいって欲しいですね。

綺麗な弧で飛んでいくことも追求していますか?
そうですね。ダーツって先端が狙ったターゲットに入ればいいんですよね。そのため先端を中心に動くのはいいのですが、バレルやシャフトを中心に動くと先端が暴れるのでそれは嫌です。どこに刺さるのか不安ですね。
綺麗な弧でスムーズに飛んでいくことは常に心がけています。

ダーツの回転についてはいかがですか?
拳銃の球でもわざと回転させて軸を作るようですが、ダーツにおいてはどうなんでしょうか?ダーツの場合はフライトが付いていますからね。あまり回転については意識していません。誰か科学者が研究して解明してくれたらいいですね!

リズム
「最近の自分に欠けている」
いろんな意味のリズムがありますが、どのリズムを気にしていますか?
とても大事で最近自分に欠けているのが、この部分だと思います。昔はポンポンとリズムよく投げていましたよね。
今は一投一投いろんなことを考えすぎてしまっていて、一投ずつが違ったダーツになっているようです。入ってる時でもリズムが悪いと気持ちよくないですね。
やはり投げる頻度を多くして身体に覚えさせることが必要なのでしょう。はっきり言って練習不足です。投げる機会が減ったことが影響してると思います。アレンジにも関係してきますね?
昔は目をつぶってもシングルには入っていたんですが、最近ははずすこともあって、一投ずつアレンジが変わることもありますからね。

対戦相手のリズムはいかがですか?
昔は影響されました。JAPANでも遅いので有名なプレイヤーがいますが、でもルール内ですから。そういう時にはそれなりに工夫して克服できるようになりました。相手を逆に待たせるように気持ちをもっていく、メンタルの強さですね。今ではほとんど気になりません。

好きなゲーム
「セパレート・ブルのゼロワン」
ゲームはゼロワンとクリケットではどちらが好きですか?
ソフトダーツでは今年の成績が良くなかった僕が言うのもなんですが、ブルは入って当たり前だと思うんです。そのためセパレート・ブルのゼロワンが好きですね。60、60って入ると今でも3本目は硬くなります。

ソフトとスティールはどちらが好きですか?
スティールの方がターゲットが小さいため入った時が嬉しいので、スティールのほうがプレイしていて楽しいですね。

練習 怪我
「僕は怪我がなくてラッキー」
今はどのくらい練習しているのですか?
ありがたいことにスポンサーに付いていただいて、月に数回イベントを開催しています。そこではしっかり投げているので、練習を兼ねてると思います。
しかしプロ同士の入れても返されるような、メンタルトレーニングにはならないので、そういうのを味わうために練習会に参加しています。
46歳になったので、練習し過ぎは必ずしも良い結果には結びつきません。若い人たちはできるだけダーツに触って、長く練習することをお薦めします。

ダーツは不思議なフォームで投げているので、いろいろ痛めるプロプレイヤーも多いですがいかがですか?
僕は無いですね。肘、肩、腰など悩んでいる人は多くいるんですが、僕はラッキーです。一度だけ半年ぐらい手首が痛いことがありましたが、知り合いの整体師の先生に見てもらったら、一発で治りました。強い身体に産んでくれた親に感謝するばかりです。

スピリット
「シンプルなダーツフォーム」
トッププロは技術的にはほぼ一線で、メンタルで勝負が決まると思うのですが?
まさしくその通りでしょうね。今の日本のソフトのレベルは僕が始めた頃と比べると、格段に進歩しています。
正直、名前と顔が一致しないような新人プロにも負けたりしますからね。何回も経験しています。その日に調子のいい運がある人が勝ち上がってくるという現状です。

そこでジョニーが長くトップを走って来れた理由とは?
生き残っている部類に入っているのか分からないですが(笑)。昨年度はJAPAN14位ですから微妙です。僕の場合はダーツに専念できる環境を与えてくれた人がいたことが大きいですね。何も考えずにダーツだけ投げていればいい時期もありました。とても恵まれていると思います。
それと先程言ったフォームの簡略化に成功したことです。シンプルな投げ方にすることによって、今まで生き残ったのでしょう。

ダーツの魅力
「何歳でも世界チャンピオンになれる」
ずばりこれほど長く続けてきたダーツの魅力とは?
僕は年齢もいっているので、やはりある程度ダーツで経験を積んだ人たちの気持ちに立っていると思います。この歳になって、よしオリンピックの100メートル陸上に出場するぞ!と言っても無理ですよね。
それがダーツは50、60歳を過ぎても世界チャンピオンになれるんです。そんな競技ってなかなか無いと思います。
ダーツの魅力はそこに尽きますね。皆さんも諦めずに上を目指し、一緒に夢を描きながら楽しみましょう。