Keita Ono-Technique-Top

Vol.86 小野 恵太
4フィンガーから3に変更

2017年7月号

・グリップについて 「フォーフィンガーからスリーフィンガーに変更」

まずグリップについてですが、今までの流れや現在こだわっていることなどを教えてください。
始めた時はスリーフィンガーでしたが、上達して行く過程でフォーフィンガーに変わりました。そのまま8年以上フォーフィンガーでしたが、去年の4月頃に浅めのスリーフィンガーに変更しました。フォーフィンガーだとどうしても指が残ってしまって失投が多くて、2年くらい状態が芳しくなかったんです。それで思いきって浅めのスリーフィンガーに変えたらだいぶ状態が良くなりましたね。

飛ばし方も思いきって真っ直ぐドーンと飛ばす様な感じだったんですけど、もう少し楽な状態で3本投げる様に変えました。元々は指でがっちりロックしてしっかり投げるという感じでしたが、今は軽く支えてスッと投げるといったイメージです。投げ方を変えて安定してきた一ヶ月後くらいに、タイミングよくワールドがあったので優勝できて良かったです。

シーズンの途中でグリップを変えるというのは怖くなかったですか?
怖かったですね。怖かったんですけど、変えた理由の一つはスティールをやり始めたことでもあるんです。スティールを投げる時にフォーフィンガーだと、抜く時にどうしても指が邪魔になります。それで、元々支えてるだけだった薬指を抜いてみたら投げ易くなるんじゃないかと、スリーフィンガーに変えてみたんです。

一昨年の年末にワールドチャンピオンシップを現地で見て、あの選手達と同じ土俵で戦っていくことが、自分のスティールの目指すところだと改めて思いました。帰国してからはハードにさらに力を入れていて、まずは今年のPDJファイナルには絶対優勝したいので、今から約2ヶ月詰めて投げ込んでいくつもりです。
どちらも平行して投げますが、僕はソフトとハードは別物だと認識しているので投げ方も変えているんです。

他のプレイヤーのグリップを参考にすることはありますか?
あんまりないですね。僕はグリップというのはプレイヤーの個性が一番出る部分だと思ってます。お箸の持ち方やペンの持ち方が人それぞれの環境によって違う様に、グリップというのはそのプレイヤーの歩んで来た過程そのものだと思うんです。だから、例えばあの選手が好きだからグリップも真似しようというのは、そこまでのグリップの基本ベースを無視して新しく変えてしまう事になるので、成功例は殆ど見た事がありませんね。アマチュア時代は人のグリップを真似して試しに投げてみたことはありますが、グリップは十人十色だと思うので、プロになってからはほとんどしていないです。

グリップの核心に入ってくるのですが、僕は中指がバレルの上に乗ってないと投げられないんです。だから絶対に短いバレルは持てないというか、中指が違う場所にあるとどうやって投げたらいいのか分らないんです。
選手の中には本当にオーソドックスな、ペンを持つ様なグリップの人もいますが、僕はそういう持ち方をすると全然狙えないです。親指と中指でコントロールしている感じですね。

Keita Ono-Technique-2

・ソフトダーツ、ハードダーツ 「投げ方を変えている」

ソフトとハードでは投げ方をどの様に変えているのですか?
飛ばし方を変えてます。ソフトは真っ直ぐ前に飛ばしたくて、ハードは抜いてる感じで早く飛ばします。リリースを早くして海外の選手の様にダーツを早く立てることを意識しています。

それは感覚的に結構大変なことですよね。
そうですね。最初は周りから「壊れるから止めた方がいいよ」と言われたんですけど、投げ方を変えることによって逆にソフトの方が調子良くなってきたんです。スティールはバレルが重いというのもあるんですが、スリーフィンガーで抜くと、ソフトに比べて全然力がいらないんです。そうやって練習しているうちに、ソフトが安定して飛ばせる力加減が分ってきたようです。ハードのために始めたスティールダーツなのに、ソフトの方にプラス要素が出て来たんですよね。

ソフトの大会の次の日にハードの大会があるということが多かったので、そういう時はコンバージョンで出場することもありました。でも今年のPDJファイナルはパーフェクトと同じ日にあるので、最後に出るパーフェクトが終わったら、そこからはスティール一本でやっていこうと思ってます。

コンバージョンではどれだけ頑張っていいダーツをしても、アベレージで90打つことが限界だと感じていたんです。自分はどちらかというとダブルヒットで勝っている試合が多くて、削りは負けてるけどダブルが入るから試合に勝てる、というパターンが多かったんです。
だからなんとか削りを追いついて行きたいと思っていたんですが、スティールに慣れていくうちにそこも少し楽になってきた感じがします。

まだそんなにトーナメントに出ていないので、自分のベストな状態を実際の試合でどこまで生かせるかは分らないですが、コンバージョンの時とは違った手応えを感じています。

ではスティールはスティールで、ソフトとは完全に違うダーツを使うということですね。
そうですね。スティールのプロトはまだ完成してないんですけど、より長くて細いタイプを取り入れていく予定です。

よりストレートタイプですね。
ハードをやり始めた頃からソフトもストレートタイプに移行しました。

・世界の舞台で感じたこと 「一歩でも近づきたい」

ワールドチャンピオンシップで海外の選手を目の当たりに見て刺激はありましたか?
ありましたね。でも僕にとってはQスクールの方が大きかったです。ワールドチャンピオンシップでは選手の練習は見られますが、ステージ上のスター選手の試合を下から見上げるというイメージで、あくまでも自分は観客ですよね。でもQスクールでは等身大で同じ体験ができるんです。参加しているのはPDCで脚光を浴びている選手の予備軍の選手達ですが、そのプレイヤー達の技術を同じシチュエーションで味わえるというのがものすごく勉強になりました。今後もQスクールに挑戦したり、出来れば治樹さんみたいにプレイヤーズチャンピオンシップにも出場していきたいと思います。

僕の目で見たダーツシーンでは、トルピードを使うならフライトは小さく、ストレートを使うなら大きいフライトで立てる、というイメージが強いんです。フィル・テイラー派かギャリーやルイス派かという感じで「オレはトルピードじゃないと投げられないから小さいフライトで真っ直ぐ飛ばそう」なのか「オレはストレートの方がいいから立てて的に入れていこう」のどちらか2タイプに完全に分かれている印象が強かったです。

Keita Ono-Technique-1

・立ち方 「左端に立つのが僕の特徴」

ダーツボードに向かった時はどこに立ちますか?
左端です。

ということは、右手がボードの真ん中にあることを意識しているのですか?
もともとは肩で合わせてました。肩をボードの真ん中に持って来て、そこに手を合わせてという感じで構えてました。僕はダーツを始めて一年後くらいからずっと左端に立っていて、たぶん他の選手と比べると誰よりも左側から投げていると思います。構えた状態ですでにブルに合っているという位置ですね。

僕の中では左端がセンターの様なイメージになってしまっているんですが、例えば9とか14をワンビットで外した時はめちゃくちゃ狙いにくい位置でもあるんです。そういう時は左側と同じくらい右に寄って投げます。そうするとボードへの距離感が変わらないので、だいたいこのスタイルで投げています。

ターゲットを狙う度に動く方だと思いますか?
基本的には左側の同じ位置に決めています。でも例えば5のトリプルに入った時などは、20トリプルを狙うのに壁になってしまうので、そういう時は右から投げたりします。それかスイッチングする様にしていますが、クリケットなどはスイッチングが出来ないので、カットにトライすることになりますね。とにかく左側が投げ易いんですけど、右側からも投げられるように意識しています。

一番左側に立つと8と10ではだいぶ距離が違いますよね。
もうずっとそれでやってきているので慣れましたね。例えば15だとこう投げて16だったらこう投げるというような意識を持っているので、15が遠く感じるというのは意外とないんです。
逆に15で狙いにくくなった時は、右側に立って16を狙う様な感覚で投げる時もあります。

今までの経験で培ってきた距離感がしっかりあるんですね。
そうですね。基本は真ん中に立つ人が、左右にズレながら投げる方が不利だと思いますね。

なるほど。
そういう考え方に変えたんです。本当は真ん中から投げた方が、隣の試合が気にならないという利点もあるんです。左側に立つと隣で試合している選手との距離が近いので、帰って来る選手とぶつかりそうになったことが何回もありました。それを避けるために真ん中に立つ様にしたこともあったんですけど、それによって調子を崩してしまったので、自分はここがスローラインだと決めました。
周りの選手に迷惑をかけてしまうこともあったりして、それはちょっと申し訳ないんですけど、自分のベストパフォーマンスはそこにあるのでしかたないなと思っています。

・肘 「固定しない」

肘についてのこだわりはありますか?
肘は昔故障したことがあって、今でも投げ過ぎた時は痛みが出ることがあるんです。それもあって肘を固定してしまうと力が入ってしまうので、肘を意識するのは構える場所だけにしています。肘が動きすぎるのは良くないと思いますが、肘よりも手の動きの方が大事だという考え方です。

腕を早く振りすぎるとどうしても肘の負担が大きくなってしまうので、できるだけ自然体で常にすーっと動くように意識しています。なるべく故障しないようにというのが頭の中にあるのかもしれないですね。

Keita Ono-Technique-3

・テイクバック 「視界から消えないように」

テイクバックについてはいかがでしょうか?
構えた所から目の下に引いて、スローが終わるまでの間ダーツが視界から消えないようにしています。以前は外側に逸れるようなテイクバックだったのですが、そのせいで戻って来るダーツに不安を感じたので、目の真下に持って来る様に練習しました。でもコンディションが悪い時などは、テイクバックした時に顔に当たることもありますね。

テイクバックの最終点は決めていますか?
決めてないです。ここまで引こうと思うと力んでしまうので、ある程度の許容範囲を持つ様にしています。それよりはタイミングやリズムに重点を置いて、これだけ引いたらこれだけ投げるというルーティーンが、頭の中で無意識にできている感じですね。引いた瞬間出すか、引いてワンテンポ置いてから出すかは状態によって使い分けていますが、最終点は決めないようにしています。

以前試してみたこともあるんですが、やっぱり力んでしまいましたね。力み過ぎて上手く投げられないというのは、イップスと勘違いしている人に多い現象だと思いました。テイクバックの時にダーツが視界から消える人にとってはいいかもしれないですが、僕の場合は常に視界の中にあるので、引きすぎると顔に当たってしまって嫌なんですよね。

軌道を自分で確かめながら投げているということですね。
はい。引いて投げるまでのルーティーンを意識しているので、出た後はあまり気にしてないんです。ダーツを手から放すところまでが全てだという考え方ですね。

テイクバックで顔に当たる時というのは、肘の位置が身体に近いとか前傾姿勢が足りないとか、そういう状態なのでしょうか。
それもありますが、僕が一番感じるのは力んでる時です。試合中に出る力みはホントに少しだと思うんですけど、ギリギリまで引いているのでそれが当たる原因かもしれないです。そういう意味では肘への意識を改めることも、次のステップとしては面白いのかもしれないですね。

・フォロースルー 「グーチョキパー」

フォロースルーでは何を意識していますか?
フォロースルーは逆に何も意識していない時の方が調子いいです。僕は放すイメージがグーチョキパーなんです。スリーフィンガーから最後は指を出してチョキみたいな形になるんですけど、優勝した試合のフォロースルーを見ると、それが勝手に出来てますね。練習では意識してしっかり放す様にしてますが、試合の時はリリースの方に全ての意識がいってしまっているので、フォロースルーは無意識です。

同じスローをする上ではフォロースルーはとても大切だと思います。だからダーツを始めたばかりの人には、フォロースルーを大事にするようにアドバイスします。フォロースルーの場所がズレるとスローの方向が変わってしまうので、同じ場所に腕が振れているかどうかを確認するためにはフォロースルーが一番いいと思います。
ある程度の技術を持った選手なら基本的にフォロースルーというのは同じ位置ですが、それをしっかり体得するまでは意識していく必要があると思います。

・リズム 「バランスの良いリズム」

リズムについてはいかがでしょうか?
プロになりたての頃は、構えた瞬間に投げるくらいすごく速いリズムでした。リリースの瞬間を大事にしているのもあって、構えて放した瞬間にその感覚のまますぐ投げたいという感じでした。そういう意識で速いテンポのまま5〜6年投げていましたが、グリップを変えてフォームが変化したらそのリズムが崩れる様になってきたんです。

それまでは1本目さえ気持ち良ければ残りの2本も入るという3本ワンセットの感覚だったのが、グリップとフォームが変わったと同時に一本ずつ投げるイメージに変化しました。そうなったことによってダーツの精度が上がりました。でも自信のない時はまだどうしても力が入り易いので、もう少しバランスの良いリズムがあるのではと模索しながら投げている状態です。

スーパーダーツの時は自信があったので、一本ずつきっちり投げられましたね。思い通りに投げてしっかり入れば更に自信がつく、というように相乗効果になっていくのがベストだと思うんですけど、今はまだ成長過程なのでどうしても自信の起伏といったものがありますね。

Keita Ono-Technique-4

・ダーツの飛び 「許容範囲でイメージする」

ダーツの飛びについてはいかがですか?
たぶんプロの中ではバタついて飛んでる方だと思います。真っ直ぐ飛ばしたいという意識はあるんですが、重心の後側をもっているせいか上に飛んでいってしまうダーツが多いんですよ。

人からはホップしているような飛びだと言われるんですが、自分では分からないんですよね(笑)。構えた場所から的に向かって一直線に飛ばしてる意識なんですけど、自分で飛びが見えてないんです。

基本的にダーツが入るか入らないかの判断はリリースした瞬間にだいたい分かるんです。理論派の選手の中には常に放物線を意識しているという選手もいますが、僕はそういうのは一切無いです。「これは入るな」という飛びはあるんですけど、毎回その飛びに乗せて行こうと意識することは無いです。放物線とか飛びよりもスピードの方が気になりますね。

あきらかにバタバタ飛ぶのは良くないですが、ある程度の許容範囲の中でイメージ通りのスピードで飛んで行ってくれると気持ちいいです。

・ダーツ上達の秘策 「毎回同じスロー」

小野選手のようなダーツを打つための秘策はありますか?
ダーツをスローする中で、セットアップ、テイクバック、リリース、フォロースルーの4つが大事な要素ですが、僕はセットアップとリリースが特に重要だと思います。毎回同じ位置に構えて、引き方はどうでもいいから毎回同じ位置でリリースする。リリースだけに意識を置きすぎると力が入ってしまうのと隣合わせなんですけど、毎回同じ位置で確実にリリースできれば近い所に飛んで行ってくれるので、まずはそれだと思います。

さらに精度を上げたいならそれはやっぱり努力も必要ですが、とにかくいかに『毎回同じ様に投げられるスローを見つけられるか』だと思います。劇的に早く上達する方法というのは無いので、あせらずじっくり自分のスローを見つけてください。

Keita Ono-Technique-5

・スピリット 「モチベーションの維持が最大の課題」

厳しい日程をこなすためには強い精神力も必要だと思いますが、スピリットで大事にしていることはありますか?
試合数が多いことによって、モチベーションの維持が難しいです。斉吾さんくらい安定していればすごいと思いますが、一回戦で負けることもあるかもしれないし、今年は5年ぶりにロビン落ちもしましたからね。そういう時でも気持ちを落とさず、次の試合まで維持するのがきついことがあります。

それからセパブルの501というのはソフトダーツでは難しいルールだと思うし、PT100・200・300と3段階ある中でモチベーションを均等に持つのも難しいです。でもいざ試合に行ってしまえばどれも同じパーフェクトの大会なので、「これはPT100だから適当に」などということはなく、目の前の相手を倒すことだけに集中しています。だから試合に行ってしまえばいいのですが、普段の過ごし方で課題が見えますね。

僕は昼の仕事をしているので、月〜金は普通に仕事をして週末は地方に試合に行くという生活をずっと繰り返しています。成績が出ていれば平日の仕事も苦にはならないんですが、思う様な結果が出ていない時のモチベーションの維持はきついです。こういう時はメンテナンスしてもなかなか疲れが取れなかったり、身体のケアも難しいですね。

スーパーダーツで優勝した時は、燃え尽き症候群というか、一時的に目標を失う様な状態に陥ったんです。「もうこれ以上のタイトルはないな」と、その瞬間に気持ちが緩んだのがいけなかったと思うんですが、それだけのことをしたという気持ちも正直ありましたね。その後パーフェクトで思い通りの結果が出ない試合が続いたんですが、「スーパーダーツで勝てたのにパーフェクトで全然勝てないのはどういうことか」と「自分の主戦場はここなのだからパーフェクトの一戦一戦を大事にやっていかなくては」と、気持ちを切り替えるタイミングがあったのが良かったです。

最初は「あと30戦以上もあるな……」という感じだったんですけど、戦っていくうちにだんだん気持ちが変わってきました。今は7位なんですがこの先一度も優勝できなのは、みっともないのでとにかく頑張って戦っていこうと思っています。まずは試合に行くまでに気力をしっかり保つこと、試合に行ったら絶対に負けないぞという強い気持ちを持つこと、こういうモチベーションが一番大事ですね。