Vol.109 西谷 譲二
脳の体力を温存する

2021年7月号

病院に行ってダーツ運動を見せたら、あっ!
それやめて下さいと言われました(笑)。

一時期クローズドスタンスで投げていた時期があって、25歳の時に肘を痛めました。半年ぐらい投げられなくて、その後イップスにもなって2年ほど厳しい期間でしたね。肘の筋を切っていたのでしょうが、痛みでテイクバックが全くできなくてかなり重症でした。

グリップ
グリップの最重要ポイントは何でしょうか?
僕は親指が深くて人差し指が浅いグリップですが、その2本を使って回転させるために少し引き込むことです。

今までにグリップは変えて来ましたか?
見た目の形は変わっていないんですが、グリップを作る動きが変わりましたね。以前は左右から挟むだけでしたが、今はダーツが回ってちょっと引っかかった状態で持ちます。見た目としては一緒で、指の位置も同じですがダーツにテンションがかかっています。普通は挟んで持つでしょうが、僕はねじって持っているイメージです。
自分では以前と比べて全く変化した印象を持っています。

他人のグリップは参考にしますか?
真似して投げることはよくあります。特にポイントやチップを薬指で触って使うプレイヤーには興味を持っています。そういう人の精度って高いんですよね。試しましたが僕には合っていないようです。
僕のグリップは他の人と比較して、大きな違いは上が空いていることだと思うんです。また人差し指は腹ではなくて側面で持っていて、独特かもしれません。トランプを持ってカードを切るようなイメージです。

グリップは日々違っているので、トーナメントではアップの時にその日の形を探すプロと、逆にいつものグリップで持ちたいとアップで確認するプロがいますが、どちらのタイプですか?
その日によって違うので一から探します。調子が悪いと少しずつ変えますね。

グリップは季節によってコンディションが変わりますが、何か対策はしていますか?
乾燥する時はカットの強いバレルを使ったり、グリセリンカリ液も併用します。湿気がある時にベタベタで投げづらいとサラサラパウダーシートですね。梅雨とかありますし、暑くてエアコンガンガンだったり、いろいろ変わるので対策は重要だと思います。自分が練習している環境じゃない所に行くので、それに近づけたいです。

立ち方
スタンスはどうしていますか?
僕は45度のミドルなんですが、決め事はスタンスに入る前に右足で一歩前を踏んで、そして左足で一歩前を踏んで、また右足でオッキを蹴って構えることです。そうすることによって身体がねじれ過ぎないように気をつけています。肩が的に向かって90度の人がいますが、僕はそれが合わないのでそうならないようにしています。

スローラインは真ん中に立ちますか?
基本的にはそうですが、そもそもスローラインやオッキを信じていなくて的やブルを見て、オッキを見ないで蹴って決める感じですね。気がついたら左に立っていたり、右に立っていたりするんですが、きっと台の向きがそうなっているんだと思います。

右足はまっすぐにしていますか?
まっすぐですね。

両足の荷重はどうでしょうか?
右足100ですね。左足は全く使っていないです。バランス的には前傾になりやすいですが、それほど体重が重いわけでは無いのでできているんだと思います。きっと体重が増えたら変わるでしょう。

体重では思うことがあるんですか?
自分では適正体重は70kg前半だと思っています。でももっと体重を増やすとダーツがどうなるのか、試してみたいですね。
海外のプレイヤーを観るとけっこうしっかり体重がある人が多いですよね。皆ちょっと太っています。ガーウェイン・プライスもマッチョじゃなくて、お腹の辺りは丸いですよね。全員が不摂生してるとは思わないので、物を投げる競技では体重がある方が有利なのではないかと考えたりします。円盤投げ、砲丸投げみんな重い人が多いですよね。海外では投てき競技は、とにかくでかくなってパワーを付けろというのが主流なようです。今まで以上に能力を伸ばすことを考えると、身体を大きくするという選択肢もあるのかもしれません。


構えた時、肘の位置は高低いかがですか?
低めだと思いますね。僕は目線上にダーツがあるので、必然的に肘はその下にあります。的を見て構えますが、多少上がっている場合もありますね。肘基準ではなく、手のダーツの位置で決まります。

構えた時、肘の位置をしっかり固めているプロと、柔軟性を大事にしてゆるくしているプロがいますが、どちらですか?
肘自体はテイクバックしてからフォローするまで、ある程度は位置がずれないようにはしているつもりです。でもどちらかと言うとダーツがきれいに的に届けばいいと思っていて、テイクバックからリリースするまでは一瞬ですが、その間だけダーツが目線上でまっすぐ動くことが一番重要なことと思っています。肘は少し右にあったり左だったりしますが、それは見ていません。肘を強く固める意識はないですね。

肘はプロプレイヤーが怪我しやすい場所でもあるのですが、何かケアはしていますか?
一時期クローズドスタンスで投げていた時期があって、25歳の時に肘を痛めました。半年ぐらい投げられなくて、その後イップスにもなって2年ほど厳しい期間でしたね。肘の筋を切っていたのでしょうが、痛みでテイクバックが全くできなくてかなり重症でした。その頃はライブのレーティングも17からAフラ無いぐらいまで落ちました。
きっかけはその頃全然休みが無くてクリスマスで3連休あったため、ほぼ寝ずに3日間投げ続けたんですよ。投げれば投げるほど感覚がよくなる成長期だったので、メチャクチャ投げてしまったんです。長時間投げれば必ずレベルアップすると信じていたんですね。
またちょうどフェニックスでレーティング25というのがあって、あと僅かで達成できそうだったんです。あとちょっという時に肘でパキッという音が…。おかしいな?と思ったら小指もしびれていて、以降動かせなくなりました。
病院に行ってダーツ運動を見せたら、あっ!それやめて下さいと言われました(笑)。もう我慢するしかないと悟りましたね。
その経験があるので、今は短い時間で集中して練習するようにしています。幸い試合では30レッグ投げるような舞台はなく、7レッグで終わるのでそれに対処するようにしています。投げる時間がマラソンになってるな、と感じた時は止めるようにしていますね。
怪我したことの無い人は3ヶ月とか6ヶ月だと思っているでしょうが、僕の経験したようなケースでは動くようになってから肘が引けなくなって、イップスとかも発症するんです。思ったよりも副作用があるので、ぜひ皆さんにも気をつけてほしいと思います。

テイクバックについて
始動はどのようにしていますか?
狙った的に少し前に出して合わせたら、そこから引き始めます。でもそもそも引くポイントを切り抜いて意識していないですね。練習の時にセットアップ、テイクバック、リリースとかの話をするんですが、それは一連の繋がった動きだと思うんです。よく初心者の方はそれを考え過ぎていて、カクカクした動きになってしまうんで、映像を見せて説明しますね。
同じにしようとセットアップ・テイクバック・リリースの形ばかりにこだわる人がいますが、筋肉は毎回異なるので難しいと思います。1回ずつ多少の角度や力加減も変わりますよね。厳密に言うと絶対に一度も同じ動きは出来ていなくて、ただ似たような動きをしているんだと思います。一連の繋がった運動の流れが大事ですね。テイクバックだけを捉えるんではなくて、ダーツをいかにリズムよくスムーズに投げるのか、それを考えるようにしています。

ではテイクバックの最終点は決めていないですね。
動画とか鏡を見ると、僕の中で一番引ける場所は右目の下、顎の右側、右の鎖骨辺りなんですが、腕の状態でそこまで引ける日と引けない日がありますね。その日によってだいたいここが良いな、と決めています。右耳とかにも引くんで、けっこう変わっていて、顔の右側ぐらいでかなりアバウトです。

スローについて
リリースポイントについてはいかがですか?
リリースポイントはバレルの重さとセッティングで変わると思います。早いとか遅いというよりも、自分の扱かいやすいタイミングで離せて、ダーツが的に対して思ったような軌道で飛んでいってくれればいいと考えていますね。このバレルは早い方がコントロールできるな、とかはあります。基本僕はきっとできるだけ長く持って、離したいタイプかもしれませんね。

投げきった後、手は伸ばしていますか?
いや、下に振り切っていく方ですね。そう考えると実際のリリースポイントは早いのかもしれないです(笑)。

投げきった後の手の形は気にしていますか?
こうした方がいいとは意識していません、見た目ではきれいかもしれませんが、離した後なんで特にメリットを感じていないです。

スピリット
トッププレイヤーになると技術的にそれほど違いは無くて、勝つ精神力が重要だと言われますが、どう思いますか?
試合では集中するために頭が疲れる時があって、合間にできるだけ考えない時間を作るようにしています。ブドウ糖を取るとか、脳の体力を温存しますね。気持ちとテクニックが直結している時はいいんですが、感情的になると結果が伴わないことが多いです。勝つぞ!という気持ちが強いことは大事ですが、激情型は僕のスタイルではありませんね。僕が優勝した時はいつも冷静でいられた時です。
どう表現したらいいのかな?赤い炎というよりは青い炎で臨んでいます。

ダーツの飛び
気にしていますか?
気にしていますね。ダーツに回転をかけているんですが、その方が的に届きやすいと思うからです。たぶん空気抵抗が増えるんでしょう。今まで腕を思っきり振らないと届かなかった距離が、半分の力で飛んでいく感覚があります。そうするとターゲットに対してより丁寧にアプローチできます。

どのくらい回転していますか?
3〜4回転してるつもりだったんですが、フライトを見ると2〜3回転ぐらいですね。フライトを小さくするともっと回っています。

セッティングですが、どのくらいの頻度で変えるんですか?
毎日で違うくらい、けっこう頻繁に細かく変えています。それによってアップの時間が画期的に変わります。例えばエアコンが当たっているボードなどでは、重いバレルで小さいフライトの方が有利なんです。同じセッティングで対応できる器用さが無いので、道具に頼っているということですね(笑)。
ダーツが暴れたらフライトを大きくしたり、調子が良くてよく飛ぶ時はフライトを小さくしたりしています。

理想のダーツの飛びはどうでしょうか?
実際は放物線を描いて飛んでいるんでしょうが、自分の目線上でダーツがぶれずにまっすぐ飛んで見えていればいいです。フライトやポイントが上がったりよりも、左右に暴れるのは嫌ですね。自分の視界の中に全部収めたいです。

スティールとソフトの違いについて
道具や距離の違いなどありますが、一番異なる点はダーツの角度ですね。スティールで角度を付けて練習した後、ソフトを投げると刺さらなくなったりします(笑)。また使えるバレルの重さでしょうか。ソフトはマックス23gですが、スティールでは28gとかもありますよね。

練習
メニューを教えて下さい。
今してることはスティールだと削りの20トリプルとトップ、32、36、10ダブルの上がりを練習しています。もっとゲーム性のあるものを取り入れたいんですが、これからですね。スティールを始めたのは最近なので、勉強中です。
今まではスティール始めるとソフトで調子崩すよ、と言われていたんですが両立できているトッププレイヤーも多くなって来たので、探り探りで模索中です。ソフトからスティールに移行する人と、スティールからソフトに技術を持って来る人など幅が広がるようになるかもしれませんね。
ソフトのバレルをそのまま使えるようにポイントをコンバージョンに変えて、ソフトの感覚でスティールも投げれるようにしていたんです。でもある時に浅田斉吾プロが逆になったんですよ。スティールの重いストレートバレルをソフトでも使うようになったんです。以前彼の飛びはきれいだったんですが、今はけっこうバタついています。でも両方で実績を残しています。次のレベルに行っちゃいましたね!(笑)。

リズム
ダーツには1本のリズム、3本のリズムなどたくさんありますが、どう考えていますか?
僕のリズムは歩くテンポです。ダーツを投げるのも歩行のペースですね。3本のリズムは前のダーツのイメージを残してポンポン投げるタイプです。

試合ではプレイが早い人、遅い人などいますが気にしますか?
僕は投げるのが早い方なので、わざわざ遅く投げて意地悪してくる人がいるんです(笑)。それで遅い人対策はしていますね。相手によって乱されないように、いろいろなリズムで投げれるように練習しています。

ソフトではゼロワンとクリケット、どっちが好きですか?
ゼロワンですね。理由はクリケットは先行が有利過ぎるからです。4ラウンドぐらいになると、20対17の場面になることが多いんですが、ゼロワンは平等ですよね。ある程度のレベル以上になると、クリケットは圧倒的に先行が勝つ確率が高いです。

これからの夢や目標を教えて下さい。
日本人で最初のタイトルをPDCで取りたいですね。ダーツやっているんだったら、そう言わないとダメなような雰囲気になっていますから(笑)。鈴木未来プロの活躍もありますし、現実的にもなって来ています。僕も頑張ります。