Vol.109 津村 友弥
どっぷりスティールに浸かって

2021年7月号

他の選手も同じで、カウントアップを見てるとえげつないですよね。
1000点なんて125アベですから(笑)。世界との差なども確実に意識するようになって、
日本ダーツが新しいレベルに入ったように感じています。
この波に乗り遅れないようにしないと沈んでしまいます。

グリップ
グリップの最重要ポイントは何でしょうか?
僕は4フィンガーで中指と薬指を下から挟んで、親指と人差し指で持って投げています。昔は親指と人差し指の2本を重視していたんですが、今はむしろ中指と薬指で持っている感覚があります。勿論、親指と人差し指で投げているんですが中指と薬指が重要だということですね。

今までにグリップは変えて来ましたか?
元々完全な2フィンガーだったんですがダーツの角度のキープが難しくて、2013年頃に4フィンガーに大きく変えました。それからは多少浅い、深いなど日々違いますが変化はありません。

大きな変化なのでたいへんだったのではないですか?
その時はジャパンにいた頃で、2週間後に試合があるというタイミングでしたが思い切って変えました。当時あまり成績が良くなかったんですが、変えて臨んだ試合でも同じだったので、そのまま突き進みました。
変えて馴れていないのに実践で使えたことで決断しました。練習で良くても試合で結果が出ないのならば、元に戻したかもしれませんね。でも手応えを感じたので迷いが無くなりました。

その後投げ込んだことと思いますが、どのくらいで身につきましたか?
身についたという感覚は曖昧ですが、その後半年ぐらいはレーティングの数字とかに変化はありませんでしたね。良いチャンレジとして捉えていたので、順調に身体の一部になったと思います。悪くなるわけが無いと信じていました。

他人のグリップは参考にしますか?
それに影響されて変えることは無いですが、よく真似しますね。映像でこのグリップ良いなと見つけると試します。始めてからもプロになってからも好奇心で続けています。

グリップは日々違っているので、トーナメントではアップの時にその日の形を探すプロと、逆にいつものグリップで持ちたいとアップで確認するプロがいますが、どちらのタイプですか?
基本的には違っていて当たり前という考え方です。でもグリップが変わる時は必ずしもグリップに要因していないと思います。
例えばお箸を持つ時、同じ姿勢で食べる時はほぼ同じ握り方です。でも変な姿勢で食べようとすると握り方も変わりますよね。ダーツにおいてはその現象が起きていると思います。微妙ですが許容範囲で日々しっくりくる形を探しますね。

グリップは季節によってコンディションが変わりますが、何か対策はしていますか?
カサカサでも夏場に汗をかいても投げづらいので、クライミング用の液体チョークを使っています。粉のチョークでもよかったのですが、持ち運びに便利でこちらを選びました。乾いた状態にしてくれて、ちょっとだけキュとなって汗をかきやすい僕には合っていますね。常にダーツケースに入れています。

立ち方
スタンスはどうしていますか?
バランスが崩れないように右足のつま先、外側、内側、かかとの全体に体重がかかるように絶えず意識します。以前は身体を開いてねじっていたんですが、膝に負担があったので最近クローズにしました。あらかじめねじってから入れるように意識しています。長い期間、試合が無かったので改良することが出来ました。

右膝はまっすぐですか?
若干余裕をもたせて曲げて立っていて、投げる時に少し伸びていますね。体重移動を意識していて、膝はクッションの役割をしていると思います。

両足の荷重はどうでしょうか?
構える直前は全部左足に体重が乗っていますが、その後構えたら左足はほとんど意識が無く、添える程度です。9:1ぐらいで左足はつま先が床に付いているだけですね。

試合が長くなると疲れないですか?
前のめりになっていないので、しっかり乗せきれていると大丈夫です。元々バランスが悪かったので、このテーマは一番重要視しています。野球のピッチャーなども投げる時に1本の足に全部の体重を移すじゃないですか。そんな感覚ですね。
これでミスショットはだいぶ減ったと感じています。

前のダーツが邪魔な時など立ち位置を変えますか?
動こうかな、と思った時は後悔するのが嫌なので、変える方です。それの方が納得がいきますよね。動かないではねられるとショックですから(笑)。


構えた時、肘の位置は高低いかがですか?
他のプレイヤーと比べると低いですね。でもそれほど高さは気にしていません。

構えた時、肘の位置をしっかり固めているプロと、柔軟性を大事にしてゆるくしているプロがいますが、どちらですか?
ゆるくして構えています。釣り竿やムチのようにしなるイメージで投げたいと思っているので、全身どこも固めようとはしていません。自然体で動いていいと思っています。

肘はプロプレイヤーが怪我しやすい場所でもあるのですが、何かケアはしていますか?
実は始めてすぐに肘を痛めて、ダーツも怪我するんだと認識しました。それ以来、治療にも行きますしセルフでもやっています。最近は振動するマッサージガンというものを使って、筋肉をゆるめたり圧迫したり、電気治療のマシンも持っています。
はりがあると不安になるタイプなので毎日投げ終わった後、何かしらケアはしていますね。デリケートなんです(笑)。完璧なコンディションで試合に望めるように心がけたいですからね。

テイクバックについて
始動はどのようにしていますか?
始動を始める前、ユーミングで前に手をちょっと出して、その一瞬でグリップを決めます。そこまでの途中では親指がダーツに当たっていなかったりするんですよね。良いか悪いか分かりませんが、癖です。親指使わないで持ってきて、その瞬間に親指をはめて、そのタイミングで引き始めます。トンカチを叩く時の最初のチョンみたいな…。

テイクバックの最終点は決めていますか?
決めていないですね。違っていいと思っています。例えばその日の身体のコンデションだったり構えた傾きなど異なるので、テイクバックは変わらないとおかしいと思いますね。僕は自分の中で遊びを作っている感覚があります。自分の思うまっすぐに、引いているというよりは引けてる感じです。左目が効き目なので、左目下の顎の辺りに来ていますがそこはアバウトですね。
テイクバックは距離感で量が変わると思うんです。遠く感じる日は深く引き、近く感じる時は浅く引きます。ナンバーによっても微妙に違います。
一年間という期間では誰もが身体もフォームも変わります。普段からそれについて気持ちを作っておいたら、焦ることが少なくなりました。
同じ処に引いても何故か入らない、それは誰もが経験することだと思います。いろんな理由が混在していますが、固め過ぎずに今日はこれが入るなというのがむしろ自然ですよ。

スローについて
狙う場所によってスローはどうしていますか?
全ナンバー距離を強く意識しています。狙っている場所に物を投げる感覚ですね。例えばゴミ箱に物を投げて捨てる時に、遠い時と近い時ではスローが違いますよね。ダーツでもそんなイメージを持っていて、外から見たらほぼ同じだと思いますが自分ではすごく変えてスローしています。

リリースポイントについてはいかがですか?
早く離そうとするとスッポ抜ける感覚があって、どっちかというとぶつけるようにしています。それこそNDLの記事でビートンがリリースでボードに石をぶつけるというのを読んで、あっ!これだと取り入れました。遅く離すイメージなんでしょうが、映像で検証するとそれほど遅くないですね。
僕はハンドボールをやっていたんですが、シュートもパスも押し込むので早く離すイメージがないんです。その影響があるかもしれないです。

投げきった後、手は伸ばしていますか?
以前は伸ばしていたんですが肘が痛くなってしまったんで、最近はインパクトで終わりにして後は惰性で勝手に伸びている感じです。意識して伸ばそうとはしていません。

投げきった後、最後の手の形は気にしていますか?
ここ2年ぐらいは気にしていません。前はきれいに縦に返そうとして形を意識していましたが、今は無いです。映像を見ると結果的に良い形というのはあるんですが、それを求めにいくときれいなだけで入らないんです。

ダーツの飛び
気にしていますか?
飛びの軌跡よりも力の伝わり方を意識しています。ボールとかは重心が真ん中なので力を伝えやすいですが、ダーツの場合は重心と角度が重要なのでしっかり角度を考えてスローすることが大事です。それによって推進力が増して良い飛びになると思っています。
理想のダーツの飛びはギャリー・アンダーソンでしょうか。僕の飛びは矢先が1回上を向いて、最後にドロップするような軌跡なんです。ソフトもスティールも始めてからずっと同じですね。アンダーソンも最後に的の直前に落ちて力強く入るんです。あの飛びに少しでも近づけていきたいですね。まだだいぶ差がありますが(笑)。

回転はどうですか?
今は必要以上には気にしていないです。でも無回転は違うと思っていて、ハンドボールでは投げる時に指先を使って回転をかけますが、ダーツでは親指をころがしてかけています。多少の回転はかかるものと思っていて一瞬ころがればいい程度で、回転数は気にしていません。
テイクバックでころがすのでは無く、構えた時に自然にかかるようなグリップになっています。回り方は的までに半回転ぐらいでしょうか。

リズム
ダーツには1本のリズム、3本のリズムなどたくさんありますが、どう考えていますか?
3本1セットでリズムよく投げるようにしています。時々早くなってしまうので、その中でも1本ずつ丁寧にと心がけています。

試合ではプレイが早い人、遅い人などいますが気にしますか?
早い人とのゲームでは自分もリズムよく投げられますが、遅い人とのゲームでは見ないようにしていますね。練習でもそうですが相手に付いていってしまうんです。影響されやすいタイプのようで、それで今までに何回も負けています(笑)。できるだけ相手を見ないで、自分のリズムだけを考えた方がいいですね。

ソフトではゼロワンとクリケット、どっちが好きですか?
クリケットの方が好きです。トリプル、ダブルでの攻め方、先行後攻でメンタルの状況でプッシュ、クローズなど戦略の幅が多くて楽しいです。

スティールとソフトの違いについて
最近はスティールばかり投げているんですが、違いはスティールはごまかせないということです。単純にターゲットが小さくて、ソフトだったらあっ!入った、と思って歩きだすようなダーツでも入っていないんですよ(笑)。
これだけ長い期間スティールに取り組んだことが無かったのですが、今は入れる感覚や試合感を勉強しています。ようやく最近は楽しむことができるようになりました。
その他の違いで思うのはポイントの重さですね。その影響はけっこう大きくて、ダーツがたれてしまったりするので、セッティッグの知識が求められると思います。使えるバレルの重量も幅が広いので研究中です。

FIDO プレミアリーグでは解説もされていましたね。
昔からチャレンジするのが好きで、スティールのリーグにも所属していますし、大会にも出るようにして来ました。投げる以外でもアレンジ学習などやれる努力はしています。勝ちに繋げられることは何でもしないとですね。
解説はえっ僕?と少し恥ずかしかったです(笑)。

オンライン・トーナメントにも多く出場していますね。
このコロナ禍で本当にありがたいと思っています。先日のDart Stream Liveでは最初がBDO選手、次がPDC選手でした。こんな経験なかなかできないですよね。みなさんに感謝です。

練習
メニューを教えて下さい。
最近はスティールメインなんですが、主にフィニッシュの練習をしています。121を3ラウンドでするのと、n01で対戦します。n01は喋れるんで臨場感もありますし、実践的なので一人練習後にしています。またネットで人のやる練習方法などを調べて真似しています。飽きないで投げられる工夫をしていますね。

スピリット
トッププレイヤーになると技術的にそれほど違いは無くて、勝つ精神力が重要だと言われますが、どう思いますか?
精神力は大事ですが、技術の差が大きいと思いますね。メンタルのせいにすると後どうしたらいいのか分からなくなります。以前レーティングが低かった時に勝ったりするとメンタルだけだ!と言われた時期もあったんですが、それだけにレベルアップに努めています。
長いツアーで年間ランキングとなると、やはりトップは技術が安定しているからではないでしょうか。

最近レベルアップされていないですか?
スティールは確実に上がっていると自覚しています。どっぷりスティールに浸かっていますからね。でもそれは他の選手も同じで、カウントアップを見てるとえげつないですよね。1000点なんて125アベですから(笑)。世界との差なども確実に意識するようになって、日本ダーツが新しいレベルに入ったように感じています。
この波に乗り遅れないようにしないと沈んでしまいます。

これからの夢や目標を教えて下さい。
目先は参加したトーナメントで結果を残していきたいです。夢としてはやはりPDCの舞台ですね。一歩ずつ実現したいと思います。