Vol.94 浅田 斉吾
世界に出ていって欲しい

2018年11月号

グリップ 「常に研究している」
初めてダーツを握ったときグリップはどんな感覚だったか覚えていますか?
すごく太いハウスダーツのブラスダーツだったんですが、指先でつまむように握っていたと記憶しています。

よく覚えている人といない人がいますが、よく覚えているということなんですね?
そうですね。明確にグリップしていたということではなく金色のプレゼントダーツだったので、なぜ他の人はシルバーなのに僕のはゴールドなんだろう?と疑問があったので印象が強いということですね(笑)。

長いダーツ歴の中でグリップは変わっていますか?
変わってはきていますが基本的な理論に変化はありません。グリップでダーツに回転をかけるということですね。早い段階からそれを強く意識しています。

回転を重要視しているのですね?
今ではその理屈が分かってきましたが、最初の頃は一生懸命PDCのプレイヤーたちの映像を見て研究していました。180とか出るときにアップになるんですがダーツがクルクル回って入っていくスロモーションを見て、こういうことなんだ、と勝手に理解していました。今ではそれが正しいと確信しています。

他のプレイヤーのグリップは参考にしますか?
あまりしないですね。でも回転率とかリリースのタイミングはよく見るようにしています。

毎日研究しているでしょうがグリップにおいて一番大事なポイントとは何でしょうか?
やはりリリースするのを逆算してタイミングとリズムでダーツを抜くということだと思います。

バレルの重心を持つとかはいかがですか?
それについては最近考えるようになりました。スティールをプレイした時にどうしても後ろが上がって刺さるんですね。でも持つ位置によっては平行に刺さることに気がついて、持つ位置とリリースの抜き方をいろいろ研究しています。

多くのプレイヤーにグリップについて質問をしてきましたが、季節、その日の調子で投げていてしっくりいかないなど、微妙に変えているケースもあるのですが、それについてはいかがですか?
何かあるから変えるのではなく、常に探求しています。毎日同じということは無いですね。模索しながら進んでいるため、季節など関係なく逆に変えるようにしています。

日本では夏と冬では温度、湿気など全く違うので感触は違いますよね?
それが嫌なのでいろいろ工夫しながらフィット感が変わらないようにしています。

立ち方 「右足に9:1荷重」
立ち方についてはいかがですか?プレイヤーによって個性があるようですが。
少しボードに向かって右に立ちます。理由としては僕にとっては真っ直ぐに手を出しやすいからですね。人によって違いがあると思うのですが、僕の場合は総合的に考えるとそこが真ん中なんです。

スタンスについてはいかがですか?
上半身の使い方は変わってきていますが、立ち方、足の開き方などはずっと同じですね。

重心などバランスは?
9:1で右足荷重、これもずっと変わっていません。

浅田選手は身体がしっかりしているので9:1でもいいのでしょうが、そうすると揺れる人もいますが。
僕もいろいろ試しましたが今のようになりました。荷重に関しては自分のバランスを探すことが大事だと思います。安定している方がいいと思いますので日々投げていれば、自分のバランスを見つけられることでしょう。

そうすると左足はどんな役割があるのでしょうか?
ほとんどガイドみたいな存在ですね。左足を浮かしても全然問題ないので、ちょっと付いている感覚ですね。足の開き方のほうがより重要だと捉えています。

場面によって立ち位置を変えることはありますか?
基本的には前に投げたダーツが気になった場合でしょうか。あまり気にしていないですね。

肘 「イップスの経験」
肘についてお聞きします。構えた時に肘の位置が高い人、低い人いろいろですがどのようにお考えですか?
僕の場合は高いですね。

背が高いためなのか高い位置から投げ下ろしているイメージがあるのですが。
そうだと思います。

テイクバックも短いですよね。
イップスになった後遺症で引けなくなっているんですね。今では引けるようにはなってきているんですが癖で残っていると思います。

イップスはいつ頃なったんですか?
2008年のことですね。昔バーンという大会があったんです。関西で予選が開催されたんですが、これに勝ったらセミファイナル出場が決まる場面で極度の緊張からか、突然引けなくなりました。

どうやって乗り越えたんですか?
それでもPERFECTには出ていたんですね。予選を勝ち上がって決勝2、3回戦ぐらいで敗退するという時期でした。苦しいながらも試合に出ながら試行錯誤していましたね。
引いたら出ないということを打破するために構えを高くしたんです。リズムなども研究して、その後なんとか投げられるようになりました。

また肘はダーツプレイヤーがよく怪我する場所ですがケアなどはしていますか?
僕はその専門学校を出ているので一応知識はあります。疲れたら無理しない、アミノ酸やクエン酸なども取り、マッサージやストレッチはしています。
極論ですが肘を痛める人は無理のある投げ方をしていると思います。楽に腕を振ることができずに、腕で狙ってしまうと怪我しやすいですね。

テイクバック 「狙う場所によって力加減を変える」
テイクバックについて教えてください。
テイクバックはセットアップした時点で90度といわれる顔までまず引きます。その後はリズムでしょうか。テイクバックを終えてから始動するイメージですね。

引く軌道はいつも同じですか?
狙う位置によって力加減は変わりますが、ほとんど同じですね。

えぇ?力加減が違っているんですか?
僕ならではの極意だと思っています。僕の技術の真骨頂ですね。

かなり奥深い話ですね。
けっこうレクチャーでは言ってるんですが、全部お話すると余りにも長くなってしまうので、僕のイベントにぜひご参加ください。そこでは理論的にすべてを説明しています。

テイクバックでは最終点は決めていますか?
引ききったところからリズムをとる程度なんでそれほど意識していません。顔のどこに引くとかは考えていません。

スロー 「本質はリリース」
スローで大事にしていることは何ですか?
抜き方ですよね。3回同じことをするというのが大原則です。よく3回同じ引き方、手が出なかったということを聞きますが本質はリリースだと思っています。
リリースが良ければフォームなんてそこそこでも入りますね。フォームやスタンス、たくさん練習しているでしょうが実は最重要ポイントはリリースなんです。手離れですね。皆さんもリリースについて考えて練習してください。必ず結果が付いてくることでしょう。

リリースポイントは早い人遅い人様々ですが、PDCの選手はすごく早いですよね。
そうなんですよ。腕の振りに比べてワンテンポ遅れてダーツが飛んでいますね。あれが僕の追求したいリリースです。

またPDCの選手はあまり腕を伸ばしていないですよね。肘を支点に振り切るフォームのイメージが強いのですが?
世界で多くの選手を見てきましたが、腕を伸ばすとかは重要ではなくて、どこでリリースするのか、が全てだと思います。

ダーツの飛び 「意識しないように」
ダーツの飛びは気にしていますか?
黒いシャフトと黒いフライトを付けてできるだけ見ないようにしています(笑)。きれいに放物線を描いて飛ばすことはできるんですが、特にスティールだと後ろが上がって刺さるんです。それは僕の理想ではないんですね。フィル・テイラーのようにぶつけていきたいんですよ。そうするとぶれて飛んでいきます。
日本人が好むぶれないダーツは気にしていません。

リズム 「自分のテンポで」
リズムについてお願いいたします。
自分に入れる自信があれば早く投げればいいと思います。でも早ければいいということでも無いですよね。1本ずつ投げるリズムをきちんと持って3本を投げることが大事です。

スティールでは1本目が思いもしないところに行くと、後からのアレンジが変わってしまいます。点数計算が難しくなるので2本目、3本目と迷っている選手とかいますが、それはリズムにおいてダメージになりますよね?
それ僕ですね(笑)。1本目のダーツに対して2、3本目をどう寄せていけるのかが勝負なんですね。最初の1本目のリズムが悪い時もありますし、2本目からリズムがよくなることもあります。本当に難解なテーマだと思います。

対戦相手のリズムはいかがですか?
自分のダーツのテンポが悪いと結果は伴ってこないです。でもすごく早い人、遅い人で左右されることはありますね。
リズムよく良いダーツを打たれると、よーし返すぞ、と良いゲームになることは多いですね。不思議なものです。

ソフトとスティールの違い 「やっていることは同じ」
ゼロワン、クリケットどちらが好きですか?
ソフトのゲーム性ではクリケットが好きです。でも今PERFECTはセパブルなんでスティールにも応用できますよね。アレンジの勉強にもなりますし、両方楽しいです。

ソフトの醍醐味はブルとの意見もあるのですが、PERFECTのセパブルに関してはどう思われますか?
どちらでもいいと思います。アミューズメントに楽しむのでしたらブルの方が分かりやすいのかもしれませんが、アレンジの必要性なども求められるセパブルはダーツの奥深さを伝えられると思います。それぞれに魅力がありますね。

ソフトとスティールの違いは何ですか?
本質的には何も違うとは思っていません。僕はスティールの要素をソフトに持ってきて成功している選手なんですね。スティールで一番重要なことは寄せる技術なんです。1本目が20の下に刺さったら上にあげていくことや、逆に上に行ったら下に投げていく技術です。
それをソフトだと意味が無いという人も多いのですが、スティールの感覚を身につけるとソフトに応用できると確信しています。
やっていることは全く同じです。

それでも距離も違うし的の大きさも異なりますよね?
確かにソフトの方がターゲットは広いですが、それでもずっとナインマークを出せる人はいません。両方ともに難しさがあります。

練習方法について 「今でも毎日…」
練習方法について教えてください。
基本的には毎日イベントかインストラクターをしています。イベントだと対戦で3〜4時間ずっと投げ続けます。インストラクターの場合は一通り練習してから、対戦で合計5時間ほどでしょうか。
大会の移動日以外はほぼそんな日々ですね。

では相変わらずすごく投げていますね!
一般的に言えばサラリーマンの3分1も休みが無いと思います。年間合計1週間ぐらいでしょうか。

スピリット 「成長したい」
スピリットについてお聞きします。ここまでの道のりはいかがでしたか?
僕にも良い面と悪い面があります。良い面としてはそれなりに努力してきたということでしょう。人が休んでいる時でも投げる、考える、何かを見つけることに人生を捧げて来ました。トーナメントも1年間で60大会出場したり、練習においても誰にも負けない自負はあります。
悪い面では納得のいかない場面で熱くなりすぎる傾向があります。それでも少しずつですが成長しているように思います。ただ技術で人をねじ伏せるのではなく心が分かるような選手になりたいですね。
最近では応援してくれる人たちのおかげで向上心を保っていることに気づくようになりました。

新しいバレル 「ストレート」
ユニコーンと契約して初めてのバレルがリリースされましたが、どのようなバレルですか?
初めてのストレートバレルなので挑戦的な部分があります。今までは投げやすさで制作してきたのですが、今回はストレートの良さを追求しました。
デザインとしてはカットも程よく、抜け感を重要視して作ったのでお勧めしたいと思います。納得できるバレルに仕上がりましたね。ユニコーンというブランドはダーツを始めた時から憧れていたので大満足です。

これからについて 「世界への挑戦」
さてPDJで優勝しワールド・チャンピオンシップの出場が決定しました。どのような意気込みですか?
昨年はロブ・クロスに負けて正直悔しかったです。その彼はその後勝ち上がって優勝ですからね。今年に賭ける気持ちは今まで以上に強いものがあります。

今年はアジアン・ツアーにも参戦し、PDCワールドカップ、上海マスターズにも出場しました。世界と日本の違いは何だと感じましたか?
経験値でしょうね。PDCのトップランカーが突然PERFECTに参戦して必ず優勝できるかというと、難しいと思うんです。国や大会などによって大きく環境は異なります。僕も今年のアジアン・ツアーではそこそこの成績を残しましたが、それは多くの経験を積んできたからです。より高いレベルでのダーツを目にして馴れてきているんですね。

浅田選手が世界で活躍すると若い選手が続くようになると思うのですが、いかがお考えですか?
目標にしてくれるのはとても嬉しいですが、いやぁ、世界では僕はまだまだです。願いは日本はそれなりに裕福な国なので、もっと世界に出ていって欲しいですね。僕もがんばりますので、一緒に世界に挑戦していきましょう!