Vol.93 榎股 慎吾
楽しく苦しいのがダーツ

2018年9月号

グリップ 「試合中でも微調整はしている」
まずグリップについてですが、最初はどのようなことを意識しましたか?
しっかり持つことですね。指先だけで持つのではなくて、バレルに触れてる面積が多い方がすっぽ抜けたりしないで安定するんじゃないかと思います。

初めて持った時はどのような持ち方でしたか?
どうだったですかね……。最初はペンを持つみたいなグリップだったと思います。当初よりそんなに大きく変わってはいないと思うんですけど。

今でもそんなに変わってはいないんですね。
そうですね。昔のグリップをはっきり思い出せないんですけど、いつの間にか今のグリップになったという感じです。

途中で研究しながらあえて変えたということはなかったのでしょうか。
研究というほどではないですが、試行錯誤はしました。

他人のグリップは参考にしますか?
今のグリップになるまではいろいろ見たりしましたけど、昔ほどは参考にしなくなりました。今でも日によって違う感じはありますけどね。

グリップを毎日変えたり試合中に変えるという人もいますが、そういうことはありますか?
極端に変えることはないですが、試合中でも微調整はしていると思います。その時の状態によって、ちょっと腹の方で持ってみたりしますね。

冬と夏の湿気の違いでクリームを使う選手もいますが、そういう工夫はしますか?
たまに滑り止めを借りたりするんですけど、僕の場合はどうしても必要な感じではないです。特に季節によって何かを変えることはないですね。

試合中にグリップがしっくりこない時などはどうしますか?
めっちゃ投げますね。練習台で空投げしてその日のグリップを見つけます。投げてるうちに「大体こんな感じかな」というのを掴んでくるので、見つからない時というのはないですね。

立ち方 「真ん中のやや右より」
では立ち方ですが、ボードに向かってどの位置に立ちますか?
真ん中のやや右寄りです。

それはなぜですか?
あまり明確な理由はないんですけど、なんとなくしっくりくるんです。立ってそのままではなくて、少し右寄りに傾いて左目で合わせます。左が利き目なんです。

昔のジョン・パートみたいな感じでしょうか。
そこまで極端じゃないですね。

スタンスはどのような感じですか?
ずっとオッキーに対して平行で、右足クローズです。

それは最初からずっと同じですか?
ずっと変わってないと思います。少しでもオープンにすると遠く感じるんです。

ゲーム中にダーツが重なった時などは動いたりしますか?
ソフトダーツのクリケットで言えば、スタートでどこを狙うかによって立ち位置が変わりますね。例えば、一本目から15、16を狙わなくてはならない時はなるべく近い位置から合わせます。僕の場合は特に16なんですけど、真正面に立つ時と少しズラす時がありますね。その方が右腕が動きやすいので、あえて斜めから入ったりします。だいたいその時の直感で判断しています。

右足は真っ直ぐですか?
若干曲がってます。

それはなぜですか?
その方が楽なんです。

真っ直ぐ立ってる選手が多いですね。
そうですね。僕も一時期は意識的に真っ直ぐにしてたんですけど、やっぱり少し曲がる様になりましたね。

その方が疲れないのですね。
疲れないし体重がうまく乗る感じです。

両足の加重の配分はいかがですか?
右足が8で左足が2くらいです。緊張したりするともう少し右にかかってしまいます。入れたいという気持ちが強いので、そういう時はミスするんですけどね。

他の選手からも、右足に加重しすぎると入れる気持ちが強くなりすぎるというのは聞きますね。
そうなんです。でもそういう時は自分でも分かるので、「ちょっとつんのめり過ぎてるぞ」となったら、少し左足に戻すように意識します。

肘 「昔より低くなった」
肘の位置は高い方ですか、低い方ですか?
昔より低くなりましたね。高い時はつっぱる感じがあったので、少し下げたんです。そうしたら肩周りが全体的に自由に動く様になりました。

位置はいろいろ試しましたか?
試しました。PDCやBDOの選手を見ていると、肩がけっこう下がってるんですよね。肩から肘の動きを見ていると、テイクバックやリリースの時に低めの方が楽な印象を受けました。それでいつもより下げてみようと思ったんです。肘の位置は気にしていますね。

肘を壊す選手も多いですが、何か特別なケアはしていますか?
一時期痛くなった時があって、その時はしっかり治療して治しました。その後は問題なく投げられているので、今は特になにもしていないです。投げ方が上手くなったというか、肘に負担をかけずに投げられるようになってきたのかなと思います。

テイクバック 「最終点は意識していない」
では次にテイクバックですが、特に意識していることはありますか?
テイクバックは飛ばすための準備なので、それ自体あまり意識してはいません。準備運動のような感覚です。

軌道は意識していますか?
特に意識していません。「どう引いてこよう」とかはあまり考えないですね。引くというよりは倒すという感覚ですね。

では最終点は決めていますか?
決めてません。これ以上下がらないというところまで倒してくるので、自然と止まる位置になるんです。
「ここまで引く」というのはなくて「ここしかない」「これで終わり」という感じです。今まで意識したことがないですね。

スロー 「試行錯誤している」
スローについてはいかがでしょうか?
スローは最近すごく意識していて、今試行錯誤しているところなんです。

日本人は比較的丁寧なスローですが、PDCの選手はあっという間に放すタイプが多いですよね。
それもどういうことなのか考えてみたんです。それで僕の今の投げ方だと、早く放そうとしても絶対放れないということが分りました。

それはなぜですか?
早く放すためには、投げ始める位置も大きく関係してると思うんです。僕の場合は、最終点まで行ったら切り替えのポイントでもう投げ始めてるので、早く放せないんです。
そうしないために手首のひねりなどを加えようとすると、リズムがグチャグチャになってしまって、何をしているのかがわからなくなってしまうんですよ。

放す位置というのはご自分では意識していなくて自然に任せているんですね。
そうなんです。いろいろ考えたりはしてるんですけどね。

では腕は伸ばす方なんですね。
そうですね、伸びていると思います。

狙う場所によってスローは変えますか?
なるべく同じ軌道で投げたいので変えないですね。ソフトの場合は刺さり方が一緒ですが、スティールだと20や19では変わるじゃないですか。なので、どこを狙うにしても同じ角度で刺さる様なスローイングを意識しているんです。違う場所を狙うにしても、常に同じ軌道を保つのが理想ですね。

ダーツの飛び 「ちょっと上がって落ちるのが理想」
ダーツの飛びは意識しますか?
飛びは気にしますね。でも実際にはあまり見えなくて、ボードから20cmくらい手前の刺さる直前で、自分のダーツがどうやって飛んでいるのかがやっと見えるくらいです。この時にどこを向いているのかは気にしますね。

どういう形が理想ですか?
ボードに向かう直前にちょっと上がって、それからドロップで落ちる感じが理想ですね。

他人のダーツの飛びは見ますか?
見ます。

飛びが良いと思う選手はいますか?
東田臣選手と中西永吉選手です。それから村松選手はちょっと違って、下から突き刺す様なイメージですけどすごく良い飛びですね。

リズム 「対戦相手は気にしない」
リズムで気にしていることはありますか?
なるべく同じリズムで投げられるように意識しています。相手のことはあまり考えないようにしているので、相手のリズムはあまり気にしませんね。

すごく遅い選手や逆に早い選手もいますが、対戦相手のリズムはまったく気になりませんか。
どんな相手でも必ず自分の順番が回って来るので、順番が来た時に自分がどう投げるかしか考えていないんです。だから、相手が早いとか遅いとかでイライラしたり、ストレスを感じたりすることはないですね。

好きなゲーム 「ゼロワンもクリケットも好き」
ではゲームについてですが、ゼロワンとクリケットではどちらが好きですか?
どっちも面白くて、どっちもヒリヒリしますよね(笑)。
展開的にいい場面で回ってきて「ここで沈めなやばいな」「ここで沈めたらかっこええな」というのはどちらにもあるんで、ゼロワンもクリケットも同じくらい好きですね。

ソフトとスティールの違い 「刺さり方と飛ばし方」
ソフトとスティールとどちらも投げる榎股選手ですが、両方の違いはなんでしょうか?
以前はソフトは外したら負け、スティールは入れたら勝てるみたいな印象がありましたが、最近はそうでもないなと思いますね。スティールのレベルも上がっていて、「まぁ回って来るだろう」という難しい数字でもサクッと上がっちゃいますし、自分でも上がれる様になってますからね。
強いて言えば刺さり方や飛ばし方などの技術的な違いでしょうか。スティールは、一本目二本目が20の見えにくい所に行った時、三本目にスイッチした時のカバー力などの技術が必要だと思います。
ソフトは的が広い分、いかに外さない様にするかですね。本当に「みんなよく入れるなぁ」と感心しますからね(笑)。

練習方法 「基本的にカウントアップ」
特にルーティーン化してはいなくて、基本的にはカウントアップが多いです。もちろん対戦もしますが、対戦ばかりで練習というのはあまりないです。カウントアップをひたすらやりたいですね。ソフトの場合はひたすらブルです。

どのくらい練習しますか?
最近はあまりできてないなぁ(笑)。
毎日一時間とか決めてはいないのですね。
決めてないです。時間があって余裕がある時は長い時間投げますが、基本的にはお店でお客さんと投げる時間が練習ですね。

怪我や故障 「ケアが重要」
今まで怪我や故障をしたことがありますか?
手首を痛めたことがあります。12〜13年前の冬のTHE・WORLDのグランドファイナルの時だったと思うんですけど、急に手首が痛み出したんです。この時は痛くて投全然げられなくなりました。
そんなに時間はかからずに治ったんですけど、結局原因は分らなかったんですよね。そういうことが起らない様に、普段からマッサージや整体に通って、なるべくケアする様にしています。

スピリット 「全面に出すと空回りする」
勝つためには大事な要素であるスピリットについてはいかがでしょうか?
「勝ちたい」という気持ちは常に根底にありますが、それを前面に出し過ぎると性格的に空回りしてしまうんです。だから勝つことばかり意識しないで試合に挑む様にしています。
どうやって勝つかは考えます。いいダーツをして勝ちたいんです。不利な展開になっていたとしても逆境を味方にして勝つというか、粘り強く対戦していくスピリットは持っていたいと思います。

最後に 「楽しく苦しいのがダーツ」
初めて出会ってから今までの長い間、ダーツを続けているのはどうしてだと思いますか?
いい意味でアホなんでしょうね(笑)。よっぽど好きなんだろうと思います。

改めてダーツの魅力は何でしょうか?
思い通りにいけば楽しいし、思い通りにいかなくても楽しいんです。難しいけど楽しいってわけわからないじゃないですか(笑)。嫌ならやめればいいのに、嫌だけどでも続けてしまう何かがあるんですよね。漠然としてますけど、そういう楽しくて苦しいというのが一番の魅力です。どんなスポーツも同じですかね(笑)。
難しいですね、この質問。考えたことなかったです(笑)。

ではファンの皆様にメッセージをお願いします。
ダーツは入るのも入らないのも楽しいので、ぜひ長く続けてほしいです。僕自身これからもずっと続けて行く競技だと思ってます。止めなければ楽しさは持続すると思うし、必ず何かが見つかるはずです。だから苦しいことがあっても止めないでほしいと思います。
それから、もうすぐ僕のバレルも出るので、それを買ってもらうとまた新しい楽しさが見つかると思います(笑)。最低2年は続けて欲しいですね。