Vol.109 柴田 豊和
精神力は大事

2021年7月号

今の時代、技術はあって当たり前ですので精神力は大事でしょうね。

僕は最初にプロツアーで優勝した時に、これだけレベルの高いステージで頂点に立てたのだから、これからは競技人生を楽しくやろう、と思えたんです。これからはどのくらいの期間通用するのかと、プレッシャー無く参戦しています。
緊張はありますが、ナーバスにはならないですね。やるだけやって負けたら仕方がないと思えるようになりました。

グリップ
グリップの最重要ポイントは何でしょうか?
親指と中指を大事にしています。人差し指は添えているだけで、余計なことをしないようにしています。

今までにグリップは変えて来ましたか?
ダーツ歴は17年目になりますが、始めてから大きな変化はありません。数ミリ単位で少しいじっていますが、変えてる人が多い中で珍しいのかもしれません。最初に握ってからずっとほぼ同じです。バレルを変える時に多少変わることもありますが、それも本当に少しですね。

他人のグリップは参考にしますか?
しないです。自分の感覚に素直に従おうと思っているからでしょうね。きれいに持って投げてという概念がなくて、入ればいいと考えています。
よくトッププレイヤーのグリップを真似して投げる人がいますが、僕はグリップではなくてスタンスやリズム、手首や腕の使い方を見ます。

グリップは季節によってコンディションが変わりますが、何か対策はしていますか?
全くしてません(笑)。試合の時に指のコンデションが悪くなることが無いんです。
僕が所属しているJOKER DRIVERのバレルがよく合っていて、しっかり持てていることもあるのかもしれません。

立ち方
スタンスはどうしていますか?
クローズドスタンスで構えています。重心は右足7、左足3ぐらいで左足も大切な役目を担っていると思っています。重心がぶれると入らないので、バランスが大事なのでそうしています。PDCのプレイヤーも投げているのを見ると安定していますよね。動き方を見ると理想的な身体の使い方をしていて、バランスが崩れることはないです。
僕もダーツ歴が長くなってきましたが思ってきたことは、日本人プレイヤーは投げ方はきれいですが、PDCのプレイヤーの方がダーツの飛び、まとめる力では断然レベルが高いと思います。昔から映像を見て研究して来ました。

右足はまっすぐにしていますか?
まっすぐにはしていませんが、曲げている感じも無くて自然体な感じです。

前のダーツが邪魔な時など立ち位置を変えますか?
刺さった位置によっては変えます。


構えた時、肘の位置は高低いかがですか?
低いと思います。そもそも肘の位置には執着心が無いですね。始めた頃はたくさん試していましたが、ある程度のレベルになってからは変わっていないです。

始めてからフォームが固まると、そこからあまり変えていないタイプですね。
変えた時期はありました。最初はオープンスタンスで、リズムも今のようにポンポン投げていないですし、理想は竹山大輔さんの投げ方でした。ところがレーティングが12〜13ぐらいの頃にイップスになってしまったんです。
そこに浴本昇吾さんがburn.に突然現れて、同じ歳なので衝撃的でした。彼の映像を見て、クローズドスタンスでポンポン投げる姿に魅了されました。当時は1本ずつ丁寧に投げるようにと教わっていたんですが、それとは真逆でしたからね。彼を真似てポンポン投げるようにすると、手が出るようになったんです。そこからそのフォームで投げるようになって、以来変えていないです。
勿論、彼のいた渋谷のお店にも行きましたよ。飛びはそうでもないですが、リズムが良くてメチャクチャ入っていましたね(笑)。

テイクバックについて
始動はどのようにしていますか?
僕はリズムを取る意味もあって、構えてから前にちょっと手を出してから引きます。

テイクバックの最終点は決めていますか?
引いて肘が止まるところまで引いています。それ以上引こうとすると肘が上がるので気をつけていますね。最終点は決めていません。細かい決め事はしていないので、だいたいの場所で良いと思っています。

スローについて
狙う場所によってスローで違いはありますか?
構える位置が数センチ変わる程度でしょうか。それと目線ですね。

リリースポイントについてはいかがですか?
リリースポイントはすごく早い方で、テイクバックの最下点から既に意識し始めています。どちらかと言うと、リリースポイントで狙って投げるのでは無くて、自分のダーツの軌道を追えるタイプなので、そこに辿らせて筒を作ってそこに通して投げます。離すのは点ですが、イメージは軌道線上ですね。
ダーツ論で言うと昔は肘を跳ね上げて奥で離す長いリリース、という教え方が主流でした。でも僕にはよく分からなかった理論で、肘を跳ね上げるのが投げづらかったので、取り入れませんでした。さんざんやれ!と言われたんですが、的に届いているんだからと拒否していましたね(笑)。
リリースポイントを長くするとある程度まとめるのが簡単になるんですが、もっと小さなターゲットを狙うにはメリットが無いと思いました。なんとなくそこに行くような投げ方に思えて、最終的にはピンポイントにダーツを刺す競技なので、自分を信じました。PDCのプレイヤーを見ると、跳ね上げている人はほぼいなかったですからね。フィル・テイラーだけが特殊でしたが、他のプレイヤーは振り切るタイプが主流でした。
僕のダーツの考え方は、自然に投げて入るのをどうやって探すかですね。合わせるのは自分がこうしたいという理想では無くて、自分の身体が自然にこう動くから、ではこうやってターゲットにアプローチしようという事です。

投げきった手の形は気にしていますか?
気にしていないですね。ダーツを離すまでの作業が同じだったら、それで良いと思います。リリースした瞬間の感触が全てです。
余計なことはできるだけ省いて、シンプルに狙った処に投げたい、入れたいだけを追求しています。

やはりイップスになって学んだことは多いようですね。
それはあると思います。決め事を作るのは止めました。こう構えて、こう狙って、こう引いて、こう前に出そうなど、本当にめんどくさい事をしていたと思います。

ダーツの飛び
気にしていますか?
これは!重要なテーマです(笑)。自分の思い描く軌道になっていないと、全く狙えませんね。僕の軌道はまっすぐな飛びでは無くて、少し放物線の飛びで左回転しています。それが安定しているとグルーピングもいいですね。

回転は意識してかけているんですか?
以前はかかっていなかったので、意識して練習して今では自然にかかっています。その日のコンデションで回転数は違いますが、リリースの仕方を3〜4パターン持っているので、それで調整します。

日本人プレイヤーでは回転をかけて投げているプレイヤーは少ないですよね?
左回転では使っている人はけっこういますが、ものすごく回転している人は少ないです。僕はクルクル回っている方ですね。

リズム
ダーツには1本のリズム、3本のリズムなどたくさんありますが、どう考えていますか?
投げるリズムは早い方です。イップスを克服してからそのリズムなので身に染み込んでいますね。

試合ではプレイが早い人、遅い人などいますが気にしますか?
対戦相手で影響されることは無いですね。自分のことしか考えていないからでしょう(笑)。

ソフトではゼロワンとクリケット、どっちが好きですか?
セパブルだったらゼロワン、そうでなければクリケットですね。理由としては今の日本のレベルだと、セパブルでないゼロワンはブルを外したら負けだからです。ブルの感触が悪い日に、ずっとブルを狙い続けなければならないのは苦痛ですね。
セパブルでしたら、20が合ってなければ19にいけるので自由度があります。

スティールとソフトの違いについて
スティールは以前から取り組んでいます。違いは的の大きさ、距離、バレルの重さなどいろいろありますが、僕の場合アプローチと狙い方も変わりますね。なんとなくでも入るソフトと、集中して狙わないと入らないスティールでしょうか。

スピリット
トッププレイヤーになると技術的にそれほど違いは無くて、勝つ精神力が重要だと言われますが、どう思いますか?
今の時代、技術はあって当たり前ですので精神力は大事でしょうね。スポーツ選手の本とかは読みました。
僕は最初にプロツアーで優勝した時に、これだけレベルの高いステージで頂点に立てたのだから、これからは競技人生を楽しくやろう、と思えたんです。これからはどのくらいの期間通用するのかと、プレッシャー無く参戦しています。緊張はありますが、ナーバスにはならないですね。やるだけやって負けたら仕方がないと思えるようになりました。

練習
最近は自分を見つめ直す機会になったので、これからさらに技術を上げるために幅を広げられないかな、と考えています。何が足りなくて、何があればレベルアップできるのかを探しています。
いままではメニューを作ってひたすら反復練習していましたが、今はそれもしつつ新しいことにも挑戦したいと思っています。

これからの夢や目標を教えて下さい。
PDCのステージには立ってみたいですね。PDCへの挑戦は日本ダーツ界でも機運が高まっていると思います。夢舞台ではなく現実になるのではないでしょうか。10年前と比較したら、スティールのレベルも上がっていますし、誰かが打ち破って活躍する日が来ることでしょう。

※この年、年末にはPDC World Championshipの舞台に立ちました。