2014年5月
すっかり暖かくなってきました。こうなると寒かった頃の感覚がもう思い出せないのが不思議です。今楽しみなのは、夏の暑い夕方に冷えたビール片手にダーツを投げることでしょうか。
さて、この連載も8回目を迎えましたが、今回は苦境に立ったときの表現に注目してみました。ダーツの試合を見ていると、途中で必ず「これは厳しい」とか、「やばい」という場面にプレイヤー達が立たされるところに遭遇します。今回のタイトルにもなっている、いわゆる「ピンチ」というやつです。この「ピンチ」という言葉、ちゃんとした英語なんです。
「pinch」(ピンチ)にはもともと「つまむ」という意味があり、最近ではスマホなどの画面を人差し指と親指で縮めたり広げたりする動作を、「pinch in/out」と呼びますね。この「pinch」には別に、「窮地、困難」という意味もあります。ですが、どちらかというと「お金に困る」とか、「窮地に陥ったときの奥の手」などという表現に使われることが多いようです。これが野球の「pinch-hitter」にあたります。意味的には合っているのですが、「誰かが困難な状態にいる」という意味ではあまり使われないようです。
この感覚で言うと、最もポピュラーな言い回しが、「be in trouble」(問題に巻き込まれている)でしょう。「He is in trouble.」(彼は窮地に立っている)というように使えます。これはどんな種類の困難な場面にも応用できる万能選手です。ちょっとしたことから、深刻な場合まで、こういった状況の中では一番使われている表現でしょう。
その他にも、「苦境に立つ」という英語表現には面白い言い回しが結構あります。皆さんは「hot seat」というと何を想像しますか?直訳すると「熱いイス」です。この言葉は、処刑に使われる「電気椅子」のスラングなんです。他にも、有名なクイズ番組だった「ミリオネア」で解答者が座る席も「hot seat」と呼ばれていました。どちらもお尻に火がつきそうな「辛い立場」という感覚ですよね。したがって、「He is in the hot seat.」と言えば、「彼は、苦しい決断をしなければならないような厳しい状況に追い込まれている」という意味になるんです。
「He is in a tight (tough) spot.」という表現もあります。「tightタイト」=「きつい、窮屈」、「toughタフ」=「厳しい、辛い」という意味なので、これも「彼は辛い状況にいる」となります。日本語で「タイト」というと「ピッタリ身体に添う」という意味で使われますし、「タフ」は言わずと知れた「タフガイ」などの、「根性の座った、頑丈な」という良い意味の方がすぐに頭に浮かびますよね。どちらも日本語では違った印象で知られた言葉だけに、窮地に陥った時に使われることに驚く人もいるかもしれません。これが日本語になってしまった英語と、本来の英語のギャップなんですね。
もう1つ面白い慣用句をご紹介しましょう。「He is caught between a rock and a hard place.」直訳すると、「彼は岩と固い場所の板ばさみになっている」となりますが、これに関しては直訳でも十分その人が立っている苦境が目に見えるような、上手い言い回しです。まさに絵に描いたようなピンチですね。
どんなに上手いプレイヤーでも、試合中に苦境に立つことが必ずあります。そんな時、それを切り抜ける手段はいつでもたった一つ。自分を信じて、落ち着いたプレイをするのみです。そして最後に窮地から脱したら、「It was a close shave!」(危機一髪だったな!)とつぶやいて笑えるように、毎日こつこつ練習あるのみですね!