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No.2 ダーツの重心は何の為に存在するのか

2015年11月

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僕がダーツを始めた10年前から比べると最近はネットショップも充実していますので、路面店にわざわざ足を運ばなくても、情報や安心さえあれば手軽に買うことができると思います。

その安心を得るために多くの方が情報源としている商品レビュー。実際に購入した人の使用した感想や率直な意見がたくさん並んでいます。実際に読んでみると、なるほどと思うものもあれば、おいおいちょっとバレルにそんな便利は機能は付いてないぞ、と突っ込みたくなるものがあるのも事実。そのため、誤解が生まれるのもよくわかります。

今回は、実際に店頭で説明する機会の多い「ダーツの重心の役割」の話。

見た目の形状と重心位置に対する誤解「前重心のダーツってどれですか」。これ、お店でよく聞かれる質問であり、説明に時間を割いてお答えする質問の一つなんです。
理由は、お客さんの頭の中をのぞいてみると分かるのですが、「前重心のダーツ」という言葉がいろいろな意味で捉えられているのです。
実際にお客さんが求めている「前重心」とは何なのかを、スタッフ側が理解したうえで説明をしていかなければなりません。
その中でも「解いておかないと話が進まない」誤解が、大きく分けるとこの2つ。もしかすると、読者のみなさんの考えている前重心のイメージに近いものがあるかもしれません。いかがでしょう。

【前重心とは?】
誤解1:バレルの先端が太いダーツ
誤解2:指に乗せてバランスが取れる場所がAの位置にあるダーツ

1:「前重心」と「最大径」。この2つの言葉の意味が混同している可能性があるタイプ
重心はそのバレルの最大径の位置にあるかというとそうではありません。バレルを製作する際のチップ・シャフトのネジ部を削る深さを意図的に変えることで、重心位置を見た目と違った場所に置くことは可能だからです。また、前方と後方で金属の材質を変え、バランスを前や後ろに寄せてあるダーツもあります。さらに、ダーツはシャフトやフライトをセッティングした際には、バレル単体の重心位置よりも後方に移動します。「太さ」と「重心」というのは全く別のものと言っていいと思います。
2:バレルの見た目の形状からAの位置に重心があると思い込んでいるタイプ
これ、非常に多いんですが、実際にそういうダーツってないんですよ。極端に前が太くて後ろを細くして、出来る限り前に寄せることはできたとしても形状に限界があるのでバリエーションも少なそう。これは言い切っていいと思います。
実際にはセッティングした状態で、AやCのような場所に重心を持ってくるのはタングステンという比重の重い金属で作っている以上とても困難です。
セッティングした状態では実際の重心位置はBの位置にあります。
まずこの誤解を解いたうえで次に「何で前重心や後重心のダーツが欲しいと思うのか」を聞いてみるんです。

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重心を持たなくてはいけないという誤解
初心者の方に写真1のようなグリップをしている方をよく見かけます。このようなグリップをしている人は、ダーツの前方を持っていると認識している場合が多いです。
「前を持っているので前に重心が欲しい」とか、写真2のように後方をグリップしている人が後重心のダーツが欲しいと言うところを考えると、「重心を持たなければいけないもの」と思っているんだということに気づかされます。でも重心を持たなくてもダーツは飛ばせます。ダーツの重心は一カ所しか存在しませんが、ダーツを投げることにおいての重心は人それぞれに存在してしまうということです。
押すような感覚でダーツを離したいと思っている場合には、(実際に押しているかどうかは別として)僕の主観では、重心より後ろを持つことで得られやすいでしょうし、重心より前を持つと押すような感覚は得られにくい。逆に重心を持って投げることによって、矢先を振るような飛ばし方は難しくなると思っています。
世間にはいろいろなプレイヤーがいて、いろいろな飛ばし方をしています。重心についてを主軸に考えると、その重心を持って投げる飛ばし方と、重心を持たない飛ばし方があるというだけだと思います。
飛ばし方について考察していくと、重心以外にも長さや形状にもきっと扱いやすさの差が、プレイヤーによって違ってくると思います。

扱い方の差ということ
お客さんから「直線的に飛ばしたい場合は前重心のダーツと後重心のダーツ、どちらがいいですか」といった具合に聞かれることがあります。きっと、前に重心があるダーツはどういう飛び方をするか、後ろの場合はどうかと、ダーツの飛び方が決まっていると思っているんですよ。それを知りたくて聞いてくるんだと思うんです。前重心のダーツの方が飛ぶとか、前重心だとダーツの軌道が下がり後重心だと安定するとか、なにか重心位置の違いによる性能の違いがあると思っているのでしょう。
実際には、そうではないと考えます。重心が前にあるものをどう扱うか、後重心のダーツをどう扱うか、あるいはセンター重心のダーツをどう扱うかということ。
結局、バレルの説明をするのに前重心、後重心という表現がいろいろな誤解を招いていると思うんですよね。バレルのスペックを表すのは、前重心ではなく「前寄せ」、後重心ではなく「後寄せ」の方が初心者の方へはニュアンスが伝わりやすくていいんじゃないかと思うのですが……。これだけ「前重心」という言葉が浸透していると、なかなか無視するのは難しいですかね(笑)。

そうやって考えながら話を進めていくと、「我こそは初心者である」という人はダーツを選ぶ際、そんなに重心位置を気にしなくてもいいのかなって話にもなってきます。

重心の組み換えが可能なbatras、あえて前寄せ・後寄せにこだわったTIGA samuraiのFusionシリーズ、「物が飛ぶためには?」のための理想に、後方重心を理想に掲げて製作するASUKA DARTSなど、重心の定義についてどう捉えているかはメーカーによってもそれぞれ違うように感じます。重心をテーマにデザイン・製作されたバレルは、一部ではあるがユーザーのバレル選びの幅を広げるというところを担っていると捉えています。

今回のテーマは文章で書くには難しく、僕の文章力の足りなさゆえ分かりにくい部分も多々あるかと思いますが、ダーツの重心について皆さんも一度考えてみてはどうでしょうか。

バレルの違いをしっかり見極めながら、自分のダーツの扱い方と向き合うことで、さらに道具選びも楽しくなるかもしれませんね。

ちなみにダーツを始めて10年経ちましたが、僕の結論も未だ出ていません(笑)。