2013年11月
1997年以来17年ぶりに消費税率の変更が2014年四月(8%)翌年2015年十月(10%)に施行される様相となりました。この消費税率変更はダーツ業界に激震を与え、それは収入源であるゲーム代にダイレクトに響いてしまうからです。マシンの機能上税率分の料金変更が出来ないところにこの二年で消費税が倍になってしまうのは、簡単に言うと利益が5%ダウンを余儀なくされてしまい早急に5%に充当する業績アップ策を思案しなければなりません。多分マシンメーカーは単にリース代に税率変更すれば済む話でしょう。しかし業界を支える末端のお店はそうはいきません。本当に業界全体で足元を見据えた現実に基づいた施策が必要な時代が来るのか、はたまた弱者は淘汰され消え去るのみなのかは分かりません…。
そして業界をプロプレイヤーとして支える選手は決して裕福な立場ではありません。本当に考えないと「誰の為」のプロコンテンツなのか本末転倒し風化しかねないと危惧しており、私も革新的な方向へ導いていけるよう益々勉強し成長して行かなくてはならないと強く思っております。
イップスをもたらす原因とは?
ダーツ業界やスポーツ界を蝕む「イップス」に端を発し様々な方向から勉強して参りました。本誌コラムでも1年が経ちかなりパワーアップした実感に満ちています。
再三言っていますがイップス症状はメンタルが原因ではありません。症状の原因がはっきりとした傾向にあり、事実メンタル的なアプローチではなく単なる「技術論」「方法論」即ち「身体の動かし方」によって改善していくのです。
間違った技術論が蔓延している
お陰様で沢山の方にイップスレクチャーを受講して頂き、まずは理論の検証のお手伝いをして頂き原因の確証を得ました。このイップスという症状をもたらす体系には三方向あり「運動力学的欠損」「解剖学的不整合」「神経障害」の三つとなります。「運動力学的欠損」とは身体から道具に力を伝える方法が間違えているという事。「解剖学的不整合」とはそもそも身体が出来る事出来ない事がありイップス症状は身体が出来ない事を技術に取り入れているのです。「神経障害」とは腕に関係する「橈骨神経(とうこつ)」「正中神経(せいちゅう)」「尺骨神経(しゃっこつ)」の障害で先天的な方または運動や仕事による後天的な方等「指が利いていない」方が多くいます。これらは相互関係となり「力が伝わらない」という結果に集約されます。逆に言えば力さえ伝わればイップスにはなりません。
しかしここで言う「力」とは腕出力の事ではなく、身体の重心が移動し得た「(並進)エネルギー」をいかに道具に伝えられるかが鍵となります。
技術論は力の伝え方のみ
おこがましくも殆どのスポーツ力学やそのノウハウは間違いだらけです。何故イップスが精神論というブラックボックスに放り込まれたのかと言えば、技術指導者の怠慢以外何物でもないと思います。私はそれほどの現実主義者ではありませんが「万能」である精神論を盾にすれば答えは「簡単」に見つかってしまうのです。しかし精神論で計り簡単に答えが見つかった所で実際簡単に諸症状は改善されるのでしょうか?気持ちを楽にリラックスすれば改善されるのでしょうか?
メンタル論はコーチの怠慢によるもの
私が今までに見させて頂いたイップス症状の方達の特徴は一言では言えません。経験値や技術レベル、性格に至るまで特別な特徴はありません。再三言っていますがトッププロですらイップス症状を持ち合わせています。そもそも「イップス=メンタル」の図式はコーチングにより上手くいかなかった選手に対し、己の技術論を正と決めつけそれを体現できず更にはイップス症状を発症した場合「気持ちが弱い」等の罵声を浴びせる事によるコーチ自身の権威を守った反省の無い自己防衛により出来上がった図式なのではと考えます。
身体には身体を守ろうとする機能が備わっている
人体の構造や機能を勉強すると様々な不思議に直面しつつ、意外にも解明されている事が殆どのような気がします。イップス症状の方がはまってしまう一つに「下半身の固定」があります。下半身の固定はあらゆるスポーツで「基礎」的に扱われている一つですがこれを私は全否定しています。一流アスリートを見て「身体・軸がブレない」「体幹がしっかりしている」等平然と言われますが果たしてそうでしょうか?少なくともお酒を嗜みながら行い年齢層が高いダーツに関して体幹論は当てはまらない気がします…。
そして私がイップスレクチャーの経験上でイップス症状を抱えているプレイヤーさんの多くが「下半身の固定」を意識しており、その下半身固定が並進運動を阻害し身体(体重)そのもののエネルギーを使えずに腕出力だけに頼り更なる不整合を呼んでいるのです。
脚気のテストはイップスの構造と一緒
身体には様々な反射運動があります。反射運動とは身体に備わった「機能」であり自分自身を守ろうとするものです。所謂イップス症状とは身体に備わった機能の緊急発動により起こります。ちなみに昨今では馴染みがないかもしれませんが脚気(かっけ)という病気が流行していました。
脚気とはビタミン欠乏症で大正時代には年間2万5千人が死亡するような大変な病気で1960年頃まで健康診断の必須項目だったそうです。その健康診断時に膝を曲げた状態で膝小僧少し下を叩き反応を見て「健康であれば」膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)という膝が勝手に伸びるという反応が見られます。
もしかしたらこの脚気のテストはやった事はあるのではないでしょうか?椅子に座って膝をコンコンと叩き健康の人であれば反応があると思います。この勝手に足が動く事象は不思議でも何でもありません。歴然とした学問により解明されている単なる反応なのです。
どういう時に反応が起こるのか?それは「伸ばす」という運動に対し「強く、速く」行う事により起こり、脚気のテストも同じシステムにより反応を示し、身体は伸ばす運動に対し非常に警戒しており事実そういう受容器が「伸ばす筋肉」にだけ備わっているのです。
下半身は「絶対」に固定してはいけません
イップス症状になると腕が出ず下半身が持って行かれるような事象があります。もしくは普通に投げていても腰が「がくん」と折れるように力が伝わらなくなるような感覚は比較的誰でも経験しているのではないでしょうか?
実はこれも反射運動で、身体傾斜し作用点(リリースポイント)に遠く力が入ると脳が反応し「転ぶ」と察知してしまい瞬間的に自然と腰を引いてしまいます。この時下半身を固定し逆足(右利きなら左足)を動かないようにすると反射は強く出て腰が砕け上体が突っ込まないように抑制がかかるような身体機能になっているのです。
イップス症状を発症している方たちの悪循環は、体幹がしっかりしていないと「勘違い」し下半身固定の意識が高くなりそれにより反射が起こるという悪循環を起こしてしまい、逆足を解除し固定の意識を取っ払わなければリリースポイントは「(身体に)近くならざるを得ない」のです。
※写真1、身体が傾斜しなければ反射が起こらず運動はスムーズに行えます。
※写真2、両足の固定を意識すると作用点が身体から離れ
上半身と下半身のバランスが乱れる事により反射は起こり腰が引き力は伝わりません。
※写真3、(右手)手元が作用するタイミングで左足を解除する事によりバランスが取れ反射は起こらずスムーズな運動となります。
ダーツ競技ではどうしてもコントロール性が求められ精度のみに囚われていきます。しかし「力の伝え方」がもっとも重要でその力とは「筋出力」ではなくあくまでも「体重や身長」所謂「個体(物体)」が「移動」「落下」し生み出す並進・位置エネルギーを使いこなせるかにかかっているのです。
しかし無理矢理動こうとする必要はありません。まずは「固定」の意識を取り払う事から始めてみてください。そして運動力学的に手首がどうあるべきかが重要になるのです。
疑問点などございましたらASUKADARTSウェブサイトお問合せなどで承っておりますのでお気軽にご質問ください。