2014年9月
「THE POWER」も人の子
先日来日していました”THE POWER”ことフィル・テイラーのイベント観戦をしてきました。やはり20年以上世界最高峰で高いレベルを見せ続けているチャンピオンを見ない手はありません。
ダーツ運動は技術的な「安定」をキープする事が難しい競技で日本においてもトップ選手が入れ替わり長年続けられる選手はごくわずかだと思います。更には技術的にプロでは戦えない水準にまで落ち込む事が多々あると思います。その中で安定的にその強さを長年発揮するフィル・テイラーはどこが違うのか生で見極めようと観察したのですが、答えは「皆と変わらない」でした。的を捉える精度が高いのですからそれに準じた凄さは当然あるに決まっているのですが、稀に1セット三本投げるテンポやトップ位置などバラバラな印象でした。
私流の言い回しの「腕が勝手に投げる」様な兆候も見られ普通の人間だと確信しました(笑)。フィル・テイラーの90年代のフォームと今現在のフォームではかなり違います。試行錯誤し最上の方法を模索する姿勢があり進化するからこそ長年王者として君臨しているのではないでしょうか?「安定」よりも「進化」させる事もしくは臨機応変に「変化」していく事が大事なのかもしれません…。必ずイップスは直ります
早いもので本コラムを書かせて頂いてから2年が経過致しました。今号より3年目に突入致しますが私も「進化」と「変化」の一年間にしたいと思っておりますのでまたご愛読宜しくお願い致します。
私のライフワークでもある運動不整合「イップス」に関する研究も早三年が経ちました。まだまだ三年ですが様々な事を学びながらイップスの原因究明を模索して参りました。お陰様でイップス兆候から立ち直りプロになった方やレベルアップされた方もしくはダーツの楽しさを再確認して頂いた方など全国で沢山の方に喜んで頂けたと思います。もちろん功を奏せず何の役にも立たなかった事もあります。それでも今の段階で言える事は必ずイップスは直ります。
イップス発症に性格や経験は関係ない
何度も本コラムやブログ等でも言っていますがイップスの原因は身体的理由にありイップス症状を発症させるスポーツや動作において原因は一緒なのです。故にダーツに限らずゴルフ・野球・テニス・卓球その他イップス症状を発症するスポーツに対して本理論は有効なのです。そしてイップスという定義ですが、これは少しでも自分の意思による動きではない解剖学的な言い回しで言う「不随意」運動は全てこれにあたります。的を捉え成功したとしても首を傾げてしまうような所作は全てイップスと言っていいと思います。
イップスはどんなにメンタルの強い方でもなります。経験値なども関係ありません。人生で初めて投げる一投目にイップスを発症する人は必ずいます。本当に明るく前向きな方そして強い思いをもっていたとしても、そして逆にいい加減な気持ちでいたとしてもイップスは発症するのです。
運動で無駄を省く事は効率化とは言わない
イップスの正体は「反射」です。反射とは特定の刺激に対する反応として意識される事なく起こるものを指し意思や思考とは無関係に起こります。
これは動物が生活する上で必要な能力であり防衛本能です。人が二足で立っていられるのもこの反射のおかげでもあり日常で気付かないうちに反射のお世話になっているのです。この便利な機能がダーツやイップスを発症する運動に取って何故邪魔をするのか?それは身体にとって非効率な方法論を取る事で「伸ばす」という運動が過多になってしまうからです。この非効率な状態が「近距離」や「低出力」時に起こり易くなるのです。
少年野球のお父さんコーチがイップス傾向にあります。それは子供相手に「手加減」をする事で身体の使い方が非効率になるからなのです。
力が伝わればイップスにはならない
イップス症状は解剖学的な原因と力学的な原因が入りまじります。要は力を伝える事が出来なくなる方法論を取る事で身体に負担がかかりイップスを発症するのが大よその原因で、力が伝わらないから伸ばす筋肉を使用(力み)し反射が起こる、反射が起こるから更に力が伝わらなくなり更に伸ばす筋肉を過度使用するというスパイラルに嵌り、中々イップス症状から抜け出す事が出来ません。
そうこうしているうちに筋肉は固くなり神経障害を患う事で更におかしくなってしまうのです。
こうなってしまうと専門医の方に相談し治療を優先させないとどうにもなりませんので無理は禁物です。(腕の)神経障害テストは簡単な方法で分かるのでレクチャー時には必ずやるようにしています。
技術論はハンドリングではなくアクセルワーク
基礎運動学にそって力学的に身体を効率よく使い力をダーツの矢に伝える事が出来ればイップスにはなりません。この「効率よく=無駄を省く」という一見腑に落ちるようなキーワードが身体の使い方を非効率に導いていくのです。皆さんが直したいと思う悪癖を直したいという意思だけでは直す事は苦難と思います。
例えば肘が下がる癖を「下がらないようにする」という方法で直す事が出来るかと言えば難しいのです。全ては力加減です。コントロール性が求められる競技でありながら技術論はハンドリングではなく「アクセルワーク」にあるのです。肘がどうして下がりたがるのか?どうして指は握りたがるのか?それは伸ばす筋肉を過度使用する事により身体の内部では連動が起こりどうしてもそうなってしまうのです。
イップスは誰にでも起こる
今回のコラムで一度イップス論を体系化してみました。まだまだ不完全だと思いますが私自身の記録とさせて頂きました。何でもそうですが理論とは複雑化します。それを一キーワードで何とか説明出来るようになりたいと思うのですが中々簡単にはいきません。それは巷にはびこる「常識」を壊す作業でもあります。
何故その常識が間違っているのかを説得力をもって説明出来なければ次のステップには進めません。世の中にはダーツだけでなく様々なスポーツでイップスに苦しんでいる方が沢山いらっしゃいます。
そんな方達の為に少しでも役に立つことが出来ればという思いで日々勉強しています。これからもどうぞお気軽にご質問して頂ければと思いますので宜しくお願い致します。