2015年11月
イップスの原因はメンタルに無い
ASUKADARTSウェブページブログで「イップスは治ります」と大風呂敷を広げたのが今から5年前。当時何も分からないまま、直感的にイップスの原因はメンタルには無いと感じ、いい加減な事を並び立てていました。自分自身ダーツを投げる上で感じる違和感の正体が何なのか知りたく、勉強というよりもインターネット上の記事を読んでいただけで知った気になっていました。正直言って最初に書かせて頂いた記事は今すぐ削除してしまいたいくらいの内容ですが、自分を戒めるためにそのままにしています。
あれから5年、個別レクチャーの問診ファイルが500枚を越え、沢山のイップス症状の症例に触れてきました。あえて言います。イップスは治ります。これは直感的なものではなく知識と経験からくる言葉と解釈して頂いて結構です。私のイップス論はまず、イップス症状の原因として解剖学的な理由を示しています。イップス症状の原因はメンタルではなく、あくまでも身体の使い方、即ち技術論や方法論によるものだという事です。ダーツだけでなくあらゆる競技に技術論があります。しかし残念ながら解剖学や物理を無視した「主観」だけの技術論が横行し、上達の妨げになっていると思います。イップスの原因は解剖学的な理由ですが、間接的には間違った指導方法が原因なのです。特にダーツ運動は間違いが多く、更にはその間違いが腑に落ちてしまう要素があると思います…。
テイクバックとは?
ダーツ技術論でよく語られる一つに「テイクバック」があると思います。コントロール性観点で、あまり引かない方がいいとか、短い方がいいとか言われていますがどうでしょうか?テイクバックを語る上で確認しなければならない事があると思います。「テイクバックとは何なのか?」です。テイクバックとは解剖学的に「肘屈曲」の事です。ようは肘関節を曲げ「屈筋」を使っている状態の事です。故に私のテイクバックの定義は、腕の「引きしろ」ではなく、肘関節の「角度」もしくは肘関節が屈曲した状態、すなわち屈筋が「収縮」した状態を指します。名プレイヤー安食賢一選手や浅田斉吾選手は、所謂「テイクバックしない」と表現されるかもしれませんが、解剖学観点ではテイクバックしているという事になります。
テイクバックは腕の構造上必要
テイクバックは絶対的に必要です。何故必要かと言うと、腕の構造上テイクバック(肘屈曲)しないと腕は伸びないような構造になっているからです。今回説明を省きますが、人間の身体(筋肉)は、曲げる運動を行う屈筋(くっきん)と伸ばす運動を行う伸筋(しんきん)の相互関係によって協力し合い運動を行います。要は肘を曲げると屈筋は収縮(運動)し、その裏側の伸筋は弛緩(準備)され、次の運動に備えるのです。(※逆に肘を伸ばす運動の時は伸筋が収縮し屈筋は弛緩されます)
ジャンプする時に膝関節を曲げずにジャンプする事は非常に大変です。身体を動かす時に膝関節はあまり動かさない方が正確に動かせるかと言えば、そんなはずはないと思います。
腕は絶えず伸びようとする
しかしダーツ技術論でよく耳にするのが、テイクバックを短くとか、肘屈曲のタメを作らない方がいいとか言うものです。あくまでも解剖学観点ですがそれは間違いです。しかしこのテイクバックを短くとか、テイクバック最下点でタメないとかいう技術論は横行します。その理由はイップス症状により腕が固まって出ない症状がある方がこの手法を取り入れようとしてしまうからです。確かに腕が固まってしまう位置までテイクバックしないようにするとか、固まってしまう位置を「通過」させようとする事は一見有効に見えますが、固まらないだけでパフォーマンスは上がりません。何故なら身体(関節)はそのような使い方をするように構造されていないからです。曲げる運動を行うから、伸ばす運動を行う事ができます。そして曲げる運動と伸ばす運動を行う配線(神経)の切り替えをスムーズに行わなければ、運動の最適化は図れないのです。そして腕が固まり出なくなるという状態は、実は腕が出ないのではなく「絶えず出ようとしている」状態なのです。
ダーツの姿勢はイップスになりやすい
ダーツ運動はその他イップス症状を持つ運動の中でも一番イップス症状になりやすい「姿勢」です。そしてその姿勢が腕を絶えず伸ばそうと誘っているのです。非常に不可解な事を私が言っているように思われる事でしょう。しかしこれは紛れもない事実で解剖学的になんら不思議な事ではないのです。人間は何を目的に「このような」構造になっているのでしょうか?鳥にはどうして羽根があるのでしょうか?魚はどうしてあのような構造になっているのでしょうか?構造物には必ず目的を元に進化していきます。その目的を果たすべく能力が備わっているのです。
人間はダーツを投げるために作られていない
ダーツ運動で、テイクバックは非常に難しい姿勢です。そして仮にテイクバックを調整しようとしても中々出来るものではありません。そもそも運動において身体が「やってしまう」状況を、「やらない」ように「意識」だけでなんとかしようとしても、どうにもなりません。何故身体が勝手に「やってしまう」のか?そこに人間の身体構造目的が何なのか(?)に沿った方法論・技術論でなければ、中々上達しない人・そしてイップス症状を持つ苦しんだ方たちの気持ちは分からないのです…。
イップスを解消しながら技術力を上げる
人間の身体はダーツを投げる事を目的としていません。ボールを投げる為でもないのです。イップス症状とは人間が本来遂行しようとしている目的に対して、構造された機能の発動によるものです。いかにその機能を発動させないような手法を行うかが重要なのです。しかしダーツ運動は非常に難しい姿勢にあり、簡単ではありません。イップス症状を持っている方、もしくは上達がままならない方が行わなければならないのは、既存の手法を忘れる事です。「こうしなければならない」と思っている事に間違いが必ずあります。
私のレクチャーでは、受講された皆様に「結果」を求めます。イップス症状を直すだけでは意味がありません。当然パフォーマンスが同時に上がらなければならないのです。これからも客観的視点を保つためにも勉強を怠らず、「不思議」から逃げないよう努力して参ります。一生勉強。