2016年1月
軸理論に偏ってはいけない
2016年新年一発目のコラムとなりますが、変わらず面倒な話を中心に綴っていきたいと思っておりますが、お付き合いのほど宜しくお願い致します(笑)。
今の時期ソフトダーツプロ両団体とも、開幕前もしくは最終戦後一年を振り返り様々な事を考えると思います。ダーツプロツアーを一年間戦う事は本当に過酷で、少しでも技術を上げ、のしかかるプレッシャーの負担を軽くしたいと考え、この時期にフォーム改造に着手するものと思いますが、自分自身の身体を思い通りに動かす事はそんなに簡単な事ではありません。
自分自身の身体を思い通りに動かす事が簡単では無いという、不可解でありながら、ダーツプレイヤーの皆さんにはお分かり頂け、本当に自分の腕が自分で制御出来ない、もしくは違和感に襲われる事は、もはや珍しい事ではないと思います。
イップス=違和感
私はダーツだけでなく野球やソフトボール・テニス・卓球・ゴルフと多方面でのレクチャーもやらせて頂いております。いわゆる「イップス」というスポーツ界を悩ます運動障害について言及させて頂いておりますが、これもダーツ競技に勤しんでいたおかげで分かった事だと思います。
私のレクチャーでは他競技の方、もしくは様々な症状であっても話は基本変わりません。それはイップス症状の原因が皆「同じ」だからなのです。ちなみに私が定義するイップス症状とは「違和感」の全てです。ダーツ競技にありがちだと思いますが、結果として的を射たとしても思わず首を傾げてしまう事はよくある事だと思います。
何かタイミングが狂ってしまい「あれっ?」と思ってしまう些細な事から、腕が出なくなってしまうような、誰から見ても異常事態な状況のものまでイップスと呼んでいるのです。逆に言えばイップス症状は日頃から誰にでも起こります。
よく上級者がなりがちだと言われますがまったく関係ありません。上級者に多いと言われるのは技術成熟しているプレイヤーさんの方が異常事態に気付き易く、初心者のプレイヤーさんは単なる下手くそで済まされているからです。
むしろ人生で初めてダーツを投げる時にも腕が出ない人も多く、野球の送球イップスではアイドルや芸能人が行う始球式時にイップス症状が多く見られます。
軸とは何なのか?
技術向上させるため、頭打ちの現状を打破するために、様々な運動理論を取り入れようと情報をキャッチされていると思います。
スポーツ界でよく言われる技術論のキーワードで欠かせないのが「軸」という言葉です。しかし簡単に飛び交うこの言葉をしっかり説明出来ている方は少なく、何故か抽象的で曖昧な技術論に感じます。
実際軸とは何なのでしょうか?軸という言葉を辞書で引くと・回転するものの中心となる棒。特に車輪の心棒。車軸。巻く物の中心にする丸い棒。特に巻物、掛け軸などの心木にする棒。活動・運動の中心となるもの。かなめ。中軸。物体が回転するときの中心となる直線。
その物体に固定したと考える直線で、空間的位置が変わる事のないもの。地球の地軸、こまの心棒。回転軸…と様々な表現で言い表されます。
「軸は大事」「軸を動かさない」「軸がブレてはいけない」運動理論で誰も疑わないこの言葉、もしくは軸そのものの解釈が本当に正しいのか考えなくてはならないと思います。
既存の技術論はスーパースターを否定する
野球界のスーパースター王貞治さん落合博満さん、まだ現役のイチロー選手等は文句のつけようがない成績を残していますが、少年野球でお父さんコーチから真似してはいけないフォームと言われてしまう筆頭でもあります。本当に真似してはいけないのでしょうか?もしくは技術的に上手くいっている理由自体の検証に間違いがあるのではと思います。
日本人のフォーム構築において武道から来る「残心」という考え方が根強く浸透していると思います。残心とは事後の姿勢の事で、弓道で言えば矢を射った後の迷いのない、姿勢を保持して崩れない状態をいい、その残心から悪いところを見出すのだそうです。
この残心の考え方から来る「静」の技術論が日本人の技術力を抑えつけているように感じます…。
運動の構成は曲げる運動と伸ばす運動
この「静」の考え方からくる軸の考え方が非常に効率悪く、イップス症状を悪化させ選手を苦しめ、技術的にも向上していかない原因の一つになっていると思います。軸を作る考え方は非常に大事です。しかしそれだけでは十分ではないのです。
ちなみに解剖学ではこの軸を定義しています。解剖学での軸とは「支点=関節が伸展」している状態を指します。即ち脚で言えば骨盤から上半身(体幹)を効率よく「支えられる姿勢」の事を軸(運動)と呼ぶのです。(※運動で言えば「片足で」体幹を支える姿勢になります。)上半身で言えば先ほど定義した下半身(脚)の上に効率よく「乗っている姿勢」が上半身の軸(運動)となるのです。
しかし下半身を固定しその上に体幹部(上半身)を乗せただけでは運動になりません。運動させるには軸を作ると共に「準備」が必要なのです!その準備運動とは軸を作る伸展運動の反対である「屈曲運動」です。
正直軸の対義語として何が相応しいか悩むところですが、普段レクチャーでは「非軸」とか「準備」と表現させて頂いています。人間の構造上運動は大きく分けて二つ。「曲げる運動」と「伸ばす運動」です。
そして(関節が)曲げるから伸ばせて、(関節が)伸ばすから曲げられる構造になっています。要は(関節の)曲げ伸ばしの運動は対になっており、その運動を可能にする筋肉も屈筋・伸筋とおおよそ対になっているのです。
技術論の全てはトップを作る事
この軸にばかり気を取られ、準備が疎かになってしまう事が技術向上しない原因です。そしてあらゆる運動理論が「出力側」の軸理論に偏り、軸を作る上で重要な「準備」に言及が成されていません。先ほども言いましたが、運動の要素とは曲げる運動と伸ばす運動、そしてその曲げ伸ばし運動が交差する「トップ」です。この曲げる運動である準備運動(非軸運動)と伸ばす運動である出力運動(軸運動)を上手く連結させるためのトップを作る事が、全ての競技に求められる技術なのです!
ダーツ運動はトップを作る事が難しい
この最重要であるトップがダーツ運動では非常に難しく、分かっていても簡単には作れません。これが私のイップス論で一番言いたい事で、ダーツ運動が他競技に比べてイップス症状が非常に多い理由になります。
イップス症状の原因はメンタルではありません。ダーツ競技が繊細でプレッシャーがかかる事でイップス症状になると言われますが、原因ではありません。あくまでも身体の使い方、骨・筋肉・神経からくる身体構造により説明ができるものです。
もし何某かの機械に不調が見られた場合、原因を探すべく何に疑いを持つでしょうか?明らかな原因があるはずです。人間も機械と一緒です。不具合が生じれば当たり前のように明らかな原因があります。そのイップス症状を発症させる因子の中に間違った非効率な運動理論を受けいれてしまい、身体に負担がかかり無理を強いる事でイップス症状が起こるのです。
脱力は何の役にも立たない
ちなみに無理をした状態である「力み」を何とかするために「脱力」という方法を体得しようとします。これも間違った技術論の一つで、力みとは例えば最大出力10に対し8くらいに出力しようとするものですが、そもそも力んだ状態とは最大出力(高出力)を出している状態ではありません…。故に出力を安に落としてしまうと「力が足りず」逆に力んでしまう現象が出てしまうのです。だいたいが「脱力して」と言われて簡単に最適化が図れるのであれば誰も悩まないと思います…。
正しい事をやれば成果が出ます。間違っていれば当然間違ったなりの結果しか出ません。どれが正しい理論なのかは、腑に落ちるかどうかではなく、全て成果に委ねるべきです。最近の流行ではありませんが、結果にコミットするものだけを取り入れればいいと思います。成果は時間や努力を裏切ります。