No.22 自分の脳内をしっかりと形としてアウトプットできること

2022年5月

何かで一番であるということは素晴らしいことだと思う。それは実際にはそうでなくともそうであると自信を持って言えることもまた同じで、そのことに本当に真剣に取り組んでいることの表れだから。僕たちはさまざまな団体が主催するトーナメントに参加する訳だけど、そのほとんどは負けてしまう。しかしだからと言ってその日の優勝したプレイヤー以外がダメなのかというとそうではないし、そう思ってもいない。僕はプロツアー0勝のプロだ。だからツアーに出ている経験値やそこで得られる自信なんてものはまだほとんどない。かといって自信もなく出場をしているわけでもないし、勝てないということを前提にして「この大会は〜の目標でやろう」「〜ができたらいい」みたいな気持ちで挑んでもいない。それまでにできる限りの準備をして、その日に全力を出し、勝つということを常に思っている。はずだった。
いつからか自分の中に勝負に対する貪欲さみたいなものが薄れているなと感じていた。全てを犠牲にしていたあの頃のがむしゃらさはどこにいったのかと、自分に問うことが多くなった。はてさてなぜだ。やることは変わっていない。むしろダーツの技術は伸びている。なのに気持ちが追いついてこないのだ。そんなことを感じていた時に、ある試合の後、いつも練習をしているプレイヤーから言われた。「試合の雰囲気が今日なかったですよ」。そうかいよいよ準備にまでその影響が出ているのかと気付かされた。これには感謝しかない。自分自身の弱さにはなかなか気づくことができないし、そこに目を向ける勇気も僕にはなかったのかもしれない。ただこうやって気付かされたことでより一層「試合」というものに対して意識して練習をすることができ始めたのは、自分の成長につながるものとして大切に記憶しておかなければならない。
日々の生活の中で仕事もし、練習もし、試合に出るということがどれだけ負担を伴うかは理解している。もう僕も20代ではない。あの頃のようながむしゃらさでダーツに取り組んではいけない。今できることもきっとあるはずだし、いろいろな経験もしてきた。それをこの先の活動に活かしていかなければならないと思う。

僕にとって何かを理解するということは、自分の体で表現できるかどうかだ。
「体得」「腑に落ちる」「身に付く」などスポーツに取り組んでいる僕には身近な言葉ではあるけれど、その全てが「身体」に関連する言葉だ。最近ではどんなことでもyoutubeやネットなどで学べる。辞書も引かなくなった。もちろん頭を使うことも体を使うことになるんだけれども僕はもっと全身を使わなければならないと思っている。もっと疲れさせなければならないし、そういった練習をしなければならない。最終的に信じられるものはそれまでに考えてきたことではなく、その取り組みにどれだけ身体を酷使してきたかだろう。目標とか課題とかも大切だ。そして今の自分のレベルから掲げているそのレベルまでどれだけ距離があるのかをしっかりと見ておくことも。多くのプロアスリートは朝早くから夜遅くまで練習に取り組み自分の壁を越えるために日々鍛錬に励んでいる。もちろん同じように考えてはいけないけれど、同じように考えなくてはならないことが多いのも事実だ。そういった部分こそプロダーツプレイヤーに足りてないことかもしれない。

広島へ来て半年が経った。時折時間を見つけては市内を散歩する。歩いていると気づくことや、歩きながら考え事をすると部屋でじっとしているよりも大切なことに気づける。美術館や歴史的な建物など僕にとって頭を整理し、時にはリセットするのには最高だ。家の近くのスタバには、もはや行くことはほとんどない。繁華街なんかより人の話し声が聞こえてくる。あそこで勉強や仕事ができる人は本当に集中できているのだろうか。そんないらないことも考える。自信は「ある/ない」なのにメンタルは「強い/弱い」なんだなとか。そんなことを考えているとあっという間に貴重な休みが消えて無くなる。なんだと思いながら帰るその足取りは当然軽くない。そんな時に僕は写真を撮るのだ。僕は散歩するときはいつもカメラを持っていく。というかいつも持ち歩いている。気になるものは何でもかんでも撮るし、きっとその時の感情も一緒にその写真の中に収めているのだろう。後で見返すとなんだこれはと思う写真がほとんどだからだ。
写真も好きで映像も好き、画像を作ることや何かを作ることが好きだ。だからできるだけ自分のイメージを形にできるように日々勉強している。映画を見ることは写真につながる、写真を見ることは映像につながるように僕の好きなものは必ずどこかで繋がっている。その中にダーツも入っている。極論、ダーツが上手くなりたければ写真を勉強するとも言い切れる。イメージを形にする練習だ。自分の脳内をしっかりと形としてアウトプットできることはダーツにとって、とてもポジティブなことだろう。