No.15 目の使い方について考える

2018年1月

ダーツを狙ったところに向かって投げるために、目は何を見ているのか。
そして何を見るよう意識付けしていけば良いかについて僕の考えを書いてみたいと思います。

突然ですが質問です。皆さんはダーツを投げている時に何を見ていますか。目の前にはボードやモニター、ダーツの軌道など色々あると思いますが、思い出されるのは何でしょうか。ダーツを狙ったところに向かって投げるために、目は何をしているのか。そして何を見るよう意識付けしていけば良いかについて考えてみたいと思います。

日頃の運動の中で目の役割が大きく係わっていると思われるものとして、「真っすぐ歩く」「真っすぐ走る」「グラウンドに真っすぐ線を引く」など、「真っすぐ○○○」といった運動が挙げられます。この、真っすぐな運動について、学生時代に(筆者は体育大学卒)目との関わりについて面白い話を聞いた記憶があります。

「短距離走で真っすぐ走るために、右の筋力100に対して左の筋力が90という選手がいたとすると、その選手が全力で目標地点まで真っすぐ走るときに、90の力しか出せない」という話でした。これには目が関係しているそうで、右100・左90の力を出し切ってしまうと、右の力が強いため真っすぐ走ることができないらしいのです。これを目からの情報によって真っすぐに走るために自動で補正されて90の力になってしまうというものだそうです。このような場合は非効率的であるため大成しにくいのだそうです。

このような話をダーツにあてはめると、目標物に向かって何かをする際、目が担っている役割というのは非常に重要で、目が勝手に機能しているケースがあるのではないかと思います。
ダーツを投げる行為は、目からターゲットの位置情報を把握して、物理的にダーツがターゲットに移動するような力が伝わるように、脳からの指示によって身体を動かしていると思います。
言葉にすると非常に回りくどいのですが、これらのほとんどの動きが一つずつ考えて動かすのでなはく、脳によって瞬時に動かせるように、練習などの反復トレーニングによって蓄積統合されていくのではないでしょうか。
もし目からの情報が欠けると、投げる行為にどのような影響があるのか。実際に目が見ているものは何なのか。また、目を閉じることで得られる、投げるために必要な情報は何なのかを簡単に試してみようと思います。

ダーツを構えた時の見え方が近い景色はどちらでしょう。(左はボード、右はダーツに焦点)

①ダーツを構える時に目を閉じて、腕を振り出してリリース前に目を開ける。
②構える時は目を開けておいて、テイクバックしてリリース前に目を閉じる。
①はダーツに力をかける時にターゲットを見ることができますので、投げる瞬間に見えたものに対して瞬時に身体を動かして合わせに行くことができます。つまり、スローラインに立ち、構えて、テイクバックするところより後の動作で合わせにいくことができてしまいます。
②は、ダーツに力をかける時にターゲットが見えないというものです。弓道で「正射正中」という言葉があります。文字通り「正しく射れば正しく中る(あたる)」。フォームやルーティンがしっかりできていれば見なくともそこに合わせる事ができそうですよね。どこに立って、どのように腕や身体を動かし、リリース前にどんな準備をするかが重要になってくると思います。
このようにあるタイミングで完全に目を閉じてしまえば自分にとって何がスローの際に必要な情報なのかがよくわかると思います。みなさんはどちらが狙いやすいでしょうか。
もちろん、普段からわざわざ目を閉じて投げようと思っている人はいないと思いますが、この「目を閉じる」という代わりに「別のものを見ていたり見ようとする」と考えるとどうでしょうか。これは無意識にやっている事として十分考えられる気がします。

②のように、投げる瞬間には的を見ていないとか、意識が的以外のものにあるということが起こってしまっているのかもしれません。例えばダーツの飛んでいる状態や肘の位置などターゲット以外の物を目視によって確認しているという方もいるのではないかと思います。
以前、エイドリアン・ルイスのブラインドスロー(3投目は的を見ないで投げるパフォーマンス)や、フィル・テイラーがボードを新聞紙で隠してブルやダブルを決める動画を見たことがあります。これらは、的の位置を目視した結果を一時的に記憶しているのではないかと思うんです。もしくは立ち位置やルーティンによって身体で覚えたもの利用しているなども考えられます。的を見続けなくともその位置にダーツを運ぶ技術というのは作れるんだと思ったのと同時に、目に使い方を考える大きなヒントになりました。

「的をみなくても合わせることができる」というのは、考え方によっては投げる動作の中に狙い方というものが組み込まれていないという見方もできます。「的に合わせる」ということと「投げる」ということが別々に確立されているからこそできるパフォーマンスかもしれません。もっと言えば、投げ方の中に目で確認しなければいけないことがあるということは、投げる動作が確立されていない可能性もあります。
どこにどの様に投げるかを決め、身体をそのように動かす上で、目標物として認識し続けるために目は使うものだと思います。これを一言でいうと「狙う」ということだと思います。
本来「投げる」という動作そのものに、目は必要ないかもしれません。自分にとってふさわしい投げ方を確立させる過程で、「目視によるチェックが必要なものは練習の中で上手に目を使う」ことが必要なことではないでしょうか。
ダーツの場合は、比較的距離の近いところに投げるため、ほとんどの人がターゲットも手元も両方が見やすい体勢をとっていると思います。そのため、的を強く意識することによって、構えた位置、ダーツの向き、肘の向きなど、自分の目には映っていてもきちんと認識できていないケースもあると思います。また、気が付いたら手元に意識をとられ、的への意識が薄れてしまうこともあります。さらには、タイミングやスピードのように、本当に目に見えないものもあります。どれもダーツにとって重要ですが、全てを意識して投げるのは非常に困難です。そして何を強く意識しているかというのは、なかなか自分では気づきにくいものです。
その場合は、他の人の目にどう映っているかを聞くのも非常に参考になると思います。また、自分の投げ方を動画撮影してみるのも一つの手だと思います。今のスマートフォンでは驚くほど鮮明に動画撮影ができますし、スローモーション動画なども手軽に撮ることができます。
自分の動画を見て、自分がイメージしている動きと、実際の自分の動きとのギャップを埋めてみるのも上達においては非常に有効だと思います。

目で見て脳が認識している部分というのは、自分ではわからないことが多いのではないでしょうか。目が見ているものによって無意識にパフォーマンスに影響しているかもしれません。

目で見るという行為も日本語で言い表せば「見る」「観る」「眺める」「凝視する」などのようにいろいろな見方があるように、「みる」視点を決めることで何かダーツの上達につながるヒントが見つかるかもしれません。

皆さんも、目の使い方について少し意識してみてはいかがでしょうか。