Rin_column_Top-7

No.7 2021 World Match Play Final
~ピーター・ライトとディミトリ・ヴァン・デン・バーグ~

2021年9月

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・ピーターとディミトリの関係
はじめに、この2人の関係について述べようと思う。
時は遡る事1.5年前の2020年3月、Covid-19パンデミックによって、イギリスを含む多くの国では海外渡航には大きな制限がかけられた。ベルギー在住であったディミトリは渡航制限によって自分の家に帰る事が出来ず、ノーフォーク州のメンダムにあるピーターの家で約3ヶ月を過ごしたのだ。ピーターの家では、ピーターと妻ジョアンと共に、スポーツを観たり、アーチェリーをしたり、農場の手伝いでビニールハウスの作成をしたり、卵を集めて周辺に住む人に提供したり、と日常生活を送りながら、ダーツの練習をピーターと共にしたそうだ。「家族全員が自分を養子として受け入れてくれた。私はピーター・ライトから多くのことを学び、それをゲームやゲームへの準備・調整で生かすことで私自身が強くなれた」とディミトリは当時を振り返っている。

・2021年、ファイナルでの対決
ディミトリは、1回戦でデヴォン・ピーターソン、2回戦でデイブ・チズネル、クオーターファイナルで現世界チャンピオンのガーウィン・プライス、セミファイナルでクリストフ・ラタスキーを倒し、ファイナルへ。
ピーターは、1回戦でダニー・ノッパート、2回戦でジョー・カレン、クオーターファイナルでマイケル・スミスを倒し、セミファイナルでは、驚異のアベレージ110.37を叩き出し、MvGを17-10(legs)で倒してファイナルへ勝ち上がってきた。
ディフォンディングチャンピオンのディミトリと昨年ディミトリのサポーターをしていたピーターのファイナル、という最高の形となった今年のワールドマッチプレイファイナル。
試合が始まると、序盤からピーターが優勢な展開となった。ディミトリはダブルが合っていなかった様で、チェックアウトしそこねる事が多く、回ってきたピーターがきっちりダブルを決めることで1-4(legs)に。
1回目のブレイク・タイム明けの6leg目、ディミトリは180を絡めて12ダーツで上がり、この勢いで追いつこうとするも、7~10leg目にピーターが15,11,14,12ダーツと素晴らしいプレーを見せ、2-8(legs)となった。
その後も、ピーター有利の展開が続き、最終スコアは9-18(legs)でピーターが優勝となった。
このファイナル、ピーターのアベレージは105.9・チェックアウト率は58%と、圧倒的なパフォーマンスであった。

・ピーターにとってのマッチプレー
ワールドマッチプレイといえばフィル・テイラー。累積16回の優勝という圧倒的な記録を持ち、ワールドマッチプレイのトロフィーには2018年度から『フィル・テイラー杯』という名前が付けられ、その伝説が永遠に語り継がれる存在になっている。
そんなフィルの最後のマッチプレーである2017年、ファイナルで戦ったのがピーターであった。ピーターはフィルを心から尊敬していた事もあり、ファイナルのステージ上でブラックプールでの最後のフィルの入場を見ていた当時のピーターは、試合開始前に既に感極まり目に涙が浮かべていた。
当時の事をピーターは「2017年の決勝では、フィルがブラックプールでの最後の試合であることに感動しすぎてしまった」と振り返っており、「二度と同じ間違いはしない、ファイナルでディミトリとの対決では感情的な部分に動かされるつもりはない」と語っていた。
そして、見事にディフェンディングチャンピオンであったディミトリを倒し、念願のワールドマッチプレイのトロフィー、即ちフィル・テイラー杯を手に入れたピーター、その余韻に浸り涙を流しながら「このトロフィーはジョーのためのものだ」と言い、妻ジョアンにマッチプレーの優勝トロフィーを捧げた。言葉にするのが難しいくらい感動的で素晴らしいシーンであった。

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・大きく動いた賞金ランキング、そしてこれからの展望
今現在(2021年9月5日時点)の賞金ランキングを見てみると、1位のガーウィン・プライスが約£1325,000、2位のピーター・ライトが約£1127,250と、その差が約£197,750程となっている。
今後秋頃からPDCでは、ワールドグランプリ、ユーロピアンチャンピオンシップ、グランドスラム、プレイヤーズチャンピオンシップファイナル、ワールドダーツチャンピオンシップ、とTVメジャータイトルイベントが多数予定されている。それぞれの優勝賞金が、£110,000(ワールドグランプリ)、£120,000(ユーロピアンチャンピオンシップ)、£125,000(グランドスラム)、£100.000(プレイヤーズチャンピオンシップファイナル)、£500,000(ワールドダーツチャンピオンシップ)である事から、今の£197,750程の差は、如何様にもひっくり返る可能性が高い。
さらに、PDCの賞金ランキングのシステムが2年分の(ランキングに加算される)全ての大会の賞金額で決められるシステムである為、2019年度にグランドスラムで優勝している現在1位のプライスは今年度のグランドスラムで優勝しない限り、賞金ランキングの額が下がってしまう。
以上の状況や、ピーターの今年度の調子を見るに、ピーターが賞金ランキングで1位に浮上する可能性は大いにあると私は考える。
これからもPDCからは目が離せない。