2019年3月号
プロレディース・ダーツプレイヤーが大きく進化している。プロのステージで熱い戦いを披露するのは勿論だが、さらに女性ならではの魅力を発信するプレイヤーが増えているのだ。今回はPERFECTで異色の存在感で知られる「ももか」をフォーカスした。ダーツ&アイドル&バンド活動を1年で200回以上イベントをこなす大忙しの女性だ。
今回は彼女が所属するhyperelectraのデザイナーKTM.にインタビュー形式の対談をお願いした。
さてどんなことを語ったのだろうか?ファンにとってはたまらない誌面となった。
以下略
K: ‘KTM.’ 小田川克己
M: 牧野百花
初めての試合がいきなりPERFECTだった
何も分からないうちにPERFECTに出場してしまって、そこで「ああこれはスポーツなんだ」と初めて認識して、「勝てる様にならなくては」と思い始めたんです。
K まずダーツという競技に対して、のめり込んだ理由を聞かせてください。
M 正直今でも、競技としてのダーツに対する視線は完璧ではないかもしれないです。
K それはプレイヤーとして?
M プレイヤーとして本当に楽しくて、ただそれだけなんです。ダーツが好きで、投げたい、勝ちたいという気持ちだけで投げてるんですよね。
K ではプレイヤーとしてではなくて、自分が好きなものにたまたまプロという形があったという感じ?
M そうですね。もしかしたらダーツじゃなくてもよかったのかも知れないですけど、たまたまいいタイミングでダーツに出会ってハマっていったという感じです。だからダーツじゃなくてもよかったんだと思います。
K 何でもよかったというのは、自分のセンスが出せるものならいいわけですよね?
M そうですね。
K ダーツで自分を表現するということを、初めて投げてからどのくらいで意識し始めましたか?
M 最初は全然そんなことは意識してなかったので、たぶん試合に出る様になってからですね。
私は初めての試合がハウストーナメントとかではなくていきなりPERFECTだったんです。
まだ何も分からないうちにPERFECTに出場してしまって、そこで「ああこれはスポーツなんだ」と初めて認識して「勝てる様にならなくては」と思い始めたんです。
K スポーツはどちらかというと苦手?
M めちゃめちゃ苦手です(笑)。
K では初めて触れたスポーツがダーツという感じですか?
M そうですね。私はとにかく不器用なんで、できることとできないことが序盤ではっきりするんですよ。最初からもうこれは駄目だなというのがはっきりする中で、ダーツは「あ、これはできそう」ってすぐ判断できたんです。そういうものって少ないから「じゃあ、頑張っちゃおう」と思ったんです。
K プロの試合に初めて出たということだけど、その時はもちろん負けたよね(笑)。
M はい。ボロ負けでしたね(笑)。
K その時は単純に試合に負けた悔しさが先に立った?それとも自分を表現できなかったことに対して「ダサイ」と思う気持ちが強かった?
M どちらかというと「ダサイ」っていう気持ちでしたね。負けた時はとにかく恥ずかしかった。プロの試合に出て連敗してる自分を人に見られるのがめちゃめちゃカッコ悪くて恥ずかしかったんです。どんどん勝ってカッコいい自分を見せたかったんで…。だから頑張らなくちゃと思ったんです。
K 負けず嫌いというよりはパフォーマンスですよね。
M そうですね。当時も歌のファンの方が試合を見に来てくれていましたが、カッコいい自分を見せることができなかったんです。わざわざ千葉や横浜から来てくれてるのに、いつもいつも情けない姿を見せて、すごく申し訳ない気持ちになっていました。
K 普通のプロ選手は対戦相手に勝つんだ、負けたくないんだということを意識していると思うけど、百花の場合はダーツもダンスのショーの様に、パフォーマンスの舞台として捉えているということだよね。
M そうですね。だから確実に壇上の方がいつもより上手に投げられますね。スイッチが入るというのか……。
K もともと人と対戦するのは苦手な方?
M めっちゃ苦手ですね(笑)。
K 負けず嫌いでもないしね。
M 全然負けず嫌いじゃないです。
どちらかというとすぐあきらめちゃうタイプです(笑)。
ダーツアイドルプレイヤー
確かに「ちょっと嫌みを言われてるのかな」と思う時もあるんですけど、実際優勝しているわけではないし。
K 百花にとってのダーツの位置付けがわかりました。
年間ツアーを廻るのは過酷じゃないですか。毎回ファンの方が見に来てくれるわけでもないと思うけど、それでもツアーを廻ろうという、百花にとってのツアーの魅力とは何なのでしょう?
M 正直なところ……う〜ん……。
K 惰性?
M う〜ん、とにかく「全戦廻りたい」という気持ちだけなんですよ。一戦でも欠けたら意味が無くて、自分の中で「全戦出てる」という自信が欲しいんです。
一戦でも欠けるなら、近場の出やすい試合にだけ出てればいいと思うんです。でも全戦出場にこだわるから、遠い地域の大会にも出場することになりますよね。例えば熊本とか沖縄などの旅費が高い地域というのは、ロビンから強いプレイヤーしかいないんです。
そういう大会で戦ってきたんだという自負が、例えばPT300などの大きい大会に出場する時の自信につながるんです。
千葉や横浜はスポット参戦の人達も多いので、そういう人達に対して強気で試合に挑めるので、私にとって全戦参戦は重要なんです。
ツアーの魅力と聞かれるとよく分からないんですけど、とにかく「全戦廻る」ということで自分に自信が欲しいんです。
K そういうふうに考えてるんだ……。ちょっと意外でした(笑)。
地方舞台を「糧」として大きな大会に挑むというわけだよね。地方巡業をして東京ドームに立つみたいなイメージですね。
M そんな感じでしょうか。
K 百花は外見に比べると内面はデリケートで繊細だと思います。注目度が高くなり、露出の機会が増えるということはある意味傷つけられる部分もあると思う。
それはダーツでもそうだし、ライブやその他でも同じだと思うんだけど、それでも出続けるのはどうしてでしょうか?
M そうですね、やろうと思えば他のこともできるかもしれないけど、今の自分が楽しく毎日を過ごすために、イベントもライブも頑張るしかないんです(笑)。
目の前にあることを本気でやらなければ失礼になる仕事なので、傷つけられるなんて言ってる場合じゃないんです。
叩かれることもあるかもしれないし「なんだ、こんなもんか」ってがっかりされることもあるかもしれない。でもただひたすらやりたいことをやるだけなんです。
K 僕たちはブランドじゃないですか。僕はKTMというブランドで、百花は牧野百花というブランドで、どこかの企業に所属しているわけでもない。ブランドとしてつま先から頭のてっぺんまで見られる覚悟というのはどうですか?
M それが一番気持ちいいと思う性格なんです。見てもらうことが喜びなので、とにかく目立ちたいと思ってるんです(笑)。
「私を見て!」という気持ちが常に頭の片隅にあるんですよね。
よく芸能人とか身を隠して生活していますが、私には全然考えられないです。私は普通にその辺を歩いていても、周りに印象付けられる人間になりたいと思っています。
だから絶対ノーメイクでは外に出ないし、地味な格好で街を歩きたくないです。私のことを全然知らない人ばかりが歩いてる、例えば渋谷のスクランブル交差点なんかでも、私にとってはステージみたいなものなんです。
K でも性格的にはナヨナヨだよね。
M はい、ナヨナヨです(笑)。
K そこのギャップがちょっと分からないというか……(笑)。
例えば僕の場合は、プライベートは僕だと気付かれたくない。表に出ないとならない、何かをしないとならない時にパワーを出せる様に、あえてKTMという人間と小田川克己という人間の二面性を作ってるんです。牧野百花の中にはそういう二面性はあるのかな?
M あると思います。私は家に帰ると、別人じゃないかと思うくらいだんまりしているんです。テレビもあんまり好きじゃないし音楽もかけないし、家では無音の世界なんですよ。基本的には「沈黙の中、粛々とお酒を飲む」といった雰囲気です。
家から一歩出たらそこはもう自分のステージですけど、自分の家は前室みたいなものなので。
K 僕の場合は、今はある程度できるようになったけど、家の中でも切り替えられない時がたまにありますよ。
M そうなんです。例えば家にいる時に人から電話がきた時なんかは、無音の家の中なのに外のテンションでしゃべってるので、すごく不自然なんですよ。でも、家の中では静かにしていたいというのはこちらの都合なので、なるべくいつも通りに話しますけど、自分ではなんか違和感感じますよね。
K 幼少時代からそういう性格だったのでしょうか?
M 子供の頃は真逆でした。人前に出るのがとにかく苦手で、通知表には「百花ちゃんはもう少し積極性が欲しいです」とか「消極的すぎます」とか、毎回書かれていました。
小学校の時は、授業中先生に当てられて、前に出て黒板に何か書きなさいと言われると、それだけで大泣きしてました。そのくらい引っ込み思案でしたね。小学校時代の友だちが今の私を見たら、すごく驚くと思いますね。
K それは僕と全く同じです。僕も子供の頃は人前に出ると赤面して全然しゃべれなくて、とにかく人前に出るのが嫌いだったんですよ。
この業界に入ってからも注目されるのが嫌だったんで、必然的に二面性を作り上げることになったんです。その二面性が暴走しちゃっているという感じかな(笑)。
二面性を作るのは、ある意味楽でもあると思いますよ。例えば外に出ている牧野百花を誰かが傷つけたとしても、実際は傷つけられない。それは自分じゃないから。プライベートで傷つけられた方がメンタルにくるでしょう。
M 間違いなくそうですね。
K その二面性の中で、理想の牧野百花像というか、私はこうありたいというのを作り上げていくと、どんどん超合金みたいになっていくと思うんですよ。自分がトランスフォーマーみたいになっていく感じ。
M めっちゃ分かります(笑)。すごく分かります(笑)。
K だから強気な発言もできるし、人から見たら「ちょっとやりすぎじゃない」というのも全然平気なんだよね。
その二面性というものを地下アイドル時代に築いたのかどうなのか、とにかく普通のダーツプレイヤーとはちょっと違うなというのを感じて、牧野百花に興味を持ちましたね。
では、プロプレイヤーの中でも『ダーツアイドル』と思われることに対してはどうですか?
M 結構どうでもいいんですよね。アイドルプレイヤーと言われることもあれば、アイドルやってたということ自体知らない人もいるので、受け取り方は人それぞれですからね。
「アイドルダーツプレイヤーって呼ばれることをどう思うか」って聞かれることがよくあるんですけど、私にとってはそんなのあんまり興味がないんですよね。アイドルダーツプレイヤーと呼ばれるなら、それはそれでいいんじゃないかと思ってます。実際にアイドルやってますし(笑)。
K その質問には「ダーツという競技は真剣勝負だから、可愛いだけでいいと思ってるの?」というのが根底にあると思うんだよね。
M あるでしょうね。
K だから「アイドルプレイヤーについて」という質問は、ちょっと意地悪な質問でもあると思う。
M 確かに「ちょっと嫌みを言われてるのかな」と思う時もあるんですけど、実際優勝しているわけではないし、すごく勝ってるわけでもないので、その辺は「もう言い訳できないよね」と。
でも「これから勝てばいいじゃない」と思ってますし、そうなった時に周りがどんな反応をするかが楽しみだったりしています。
K じゃあ、おばあさんになってもダーツやる?
M やるやるやるやる!骨でも折れなければずっとやる(笑)。
K ということは、アイドルやバンドなど自分を表現する手段がいくつかある中で、ダーツは重要な位置にあるということだよね。
M そうですね。重要になってきましたね。だんだんと日を追うごとに重要になってきました。
ダーツ&アイドル&バンドという3活動
全部ステージだと思ってるので(笑)。むしろこうじゃなかったら面白くなくて、全部やめちゃってるかもしれないですね。
K ヘアスタイルやファッションなどをセルフプロデュースしているけど、特に気を付けていることはなんですか?
M 最低限、太らない様にしています(笑)。これは大事です。「あの子アイドルもやってるらしいよ」って呼ばれたイベント先に興味を示してくれて集まってくれたお客さんの、期待を大きく裏切るような結果だとがっかりするじゃないですか。一目見て「あ、なんかやってるな」ってインパクトを与えることが大事だと思ってるので、そういうオーラを出せるように気を付けています。
イベントではショートパンツに奇抜なレッグウォーマーとか、チャイナっぽい髪飾りを付けたりするんですけど、あれは自分の中ではシンボル的なもので、他の女子はやらない雰囲気にしています。
K いつも同じユニフォームを着て次々にイベントを廻るのではなくて、百花は一つ一つのイベントにそれぞれのカラーを付けていこうとしているのを感じるんですよ。年間200本近くやっていればどうしてもダレてくるものだと思うけど、それでも手を変え品を変え百花ならではの正装をする。セルフプロデュース力がすごいと思うし、毎回お客さんを喜ばせようとする姿勢には脱帽しますよ。
例えば僕だったらこのまま行っちゃうし、寝間着で行ってる時もあるし、まぁ僕はアイドルじゃないんで(笑)、ただしゃべってればいいだけなんで当然違うんだけど(笑)。
それにしても百花のセルフプロデュース力はすごい。それは自分が好きでやってるのか、仕事だからやってるのかといったらどっちですか?
M 圧倒的に前者ですね。私はクリスマスやハロウィンになると、ちょっと高くても自腹でコスプレ買ってイベントに参加していますから(笑)。
ダーツイベントに関しては、正直言うとギャラマイナスコスプレ代なので、イベント代の方がちょっと安くなることもあるんですよ。でもそれでもいいんです。
普段から可愛い服を着て歩きたくて、それは普通にただ歩いてる時でも「あ、あの子可愛い」って思われたいからなんです。人から注目されるために着飾りたくて洋服を買うんです。
イベントというのは、私を見たいと思ってる人があんなに集まってくれてるんだから、可愛くしない意味が分からないですよね(笑)。
K そういう意味で言うと、セルフプロデュースという観点よりもプライスレスな部分を重要視しているのかなと思うんですよね。
デザイナーとして言うと、例えば1円の仕事と200万円の仕事があったとして、一円だから一円の仕事しかしないわけではなく、200万円だから200万円なりの仕事をするわけでもないんです。一円の仕事がものすごいマイナスになってしまったとしても、自分が納得する仕事をしないと気が済まない。百花もそれと同じで、自分が納得する形にしたくて、そこに情熱をかけているということですよね。
M 本当にそうなんです。
K 例えばスタイリストさんとか、ファッションのアドバイスしてくれる人はいますか?
M いないです。自分が好きな物を着てるだけです。
K ダーツだけのプレイヤーもいれば、無関係の仕事をしながらダーツもする両立型のプレイヤーもいますね。百花は両立型のプレイヤーだけど、ダーツとアイドルとバンドという3つの活動をしていても、苦労していることは無さそうですね(笑)。
M ないですね、全部ステージだと思ってるので(笑)。むしろこうじゃなかったら面白くなくて、全部やめちゃってるかもしれないですね。
K では全然疲れてないですか。
M 全然疲れてないです。ずっとアドレナリン出てますね(笑)。
K 「ハレの日ケの日」というのがあって、普段は事務職とかの仕事を持つ人が「ハレの日」には、いきなりDJになってストレスを発散したりする両立型もあるんです。そういう意味では百花は両立型でもなんでもなくて一方向型だよね。「表現できればそれでいい」みたいな(笑)。
M 私はもっと単純なんです。単純で簡単です(笑)。