Vol.100 佐藤 佑太郎
人生を賭けて遊べる

2019年11月号

グリップ
まずダーツを始められたのはいつからですか?
19歳の時です。途中で3年間止めていたんですが、また復帰して今6年目です。ダーツ歴はその3年を抜いて約12年です。

一番最初にダーツを持った時のことは何か憶えていますか?
全然憶えてないですね。ただ真ん中に入れたいと思ったことしか憶えてないです。

グリップに関してはいかがですか?
経験者の方が周りにたくさんいたので、持ち方とかを教えてもらいました。その時は親指と人差し指でしっかり持てば、あとはどうでもいいと言われたのを憶えてます。リリースする時にその二本でしっかり持っていることを教えられました。

投げているうちにダーツのグリップは変わってきましたか?
めちゃめちゃ変わってきたと思います。どんどん変わってますね。

具体的にはどのように変わってきましたか?
最初は指先で持ってたのがだんだん第一関節まで上がってきて、深い時は第二関節まできたりします。その時によってダーツを握る深さが変動しますね。

他人のグリップは参考にしますか?
ヨーロッパの選手達の今の主流は3点グリップで、それに対して日本人は親指と人差し指の2点で持つ選手が多いです。これはモンキーグリップと言われてるらしいですね。僕も2本指なので、ヨーロッパの選手の様に3本で持つとどうなるのか試したりしますね。

その日の調子によって試合中に変えることはありますか?
あえて自分で変えようとはしないですが、無意識のうちに変わってることはあると思います。

季節によって変わる湿気や乾燥などを気にしたり、何か対処したりしますか?
僕は圧倒的に気にする方です。冬は乾燥で手が荒れてめちゃくちゃ皮がむけたりするんで、試合の時は常に化粧水とおしぼりを持ってます。
手をできるだけしっとりさせる様に気を付けています。

グリップに関して一番大事にしているポイントはありますか?
手首を座らせた状態で持つということです。

手首を曲がらない状態に固めてから持つということですか。
はい。順番が逆になるとおかしくなるので、持ってから手首を決めるのではなくて、手首を決めてから持つ様にしています。指から決めると土台が定まらないままで、指先でしか狙ってないイメージになってしまいます。腕の動きが大事なので、僕の場合は手首からしっかり決めてあとは握るだけです。

立ち方
立ち方についてですが、どの辺りに立ちますか?
真ん中です。台に対して真ん中でやや右寄りという感じです。

それはどうしてですか?
一番近いからです。左右に寄る立ち方だと距離が変わるというか、なんとなく損している気になるんです。最短距離が真ん中だと思います。

それは途中から変えたのですか?
変えました。僕はもともとさる腕で、左側から立たないと腕のラインがまっすぐにならないので左側から投げてたんです。小野恵太選手がすごく左から投げると思うんですけど、彼より左だったくらいです。それから頑張って真ん中に変えました。立ち位置については一番時間をかけたかもしれないです。

一本目二本目が刺さった場所によっては投げる時に動きますか?
最近動くようになりました。動く練習もしてます。

左右の足の加重はいかがですか?
8−0のイメージです。

8−0となると、2はどこに行くのですか?
2はニュートラルで、左足は0のイメージなんです。残りの2の中でアジャストしてる感じですね。

2をニュートラルにすることによって投げる時のバランスを取っているわけですね。
そうです。2を遊びに使ってバランスを取ってます。この遊びが無いと左足が突っ張って硬くなってしまいますね。

右足は真っ直ぐですか?
少し曲がってるので真っ直ぐにしたいです。

真っ直ぐにしたいのはなぜですか?
真っ直ぐの方が重心がしっかりして動かないイメージがあるんです。だから真っ直ぐが理想なんですが、身体が付いていかないですね(笑)。


肘の位置はいかがですか?
僕は低い方だと思いますね。できればもう少し高い方がいいんじゃないかと思ってます。

少し低めの方が楽な感じでしょうか。
僕は身長がそんなに高くないので、腕の伸ばしでボードに届かせたいというイメージなんです。そうすると低めの位置から腕を伸ばした方がダーツが飛ぶと思うのですが、本当はもう少し高めにしたいですね。
高い位置から投げた方が可動域も少なくて、合わせるだけになるので楽じゃないかと思っています。

肘は固めてますか?
特に意識してないですが、動いてないと思います。肘が上がるとか下がるとかはあんまり気にしてないですね。

すごく固めて投げる人と柔軟性を持って投げる選手がいますが、どちらかというと柔軟性を持たせているタイプの様ですね。
そうですね、そうだと思います。

肘を壊すプレイヤーが多いですが、何かケアはしていますか?
筋膜リリースとかマッサージをよくします。それから一日一回は必ず湯船に浸かります。

痛めたことはありますか?
何度もあるんです。それこそ今年の開幕戦などはヤバかったです。

でも決勝まで行かれましたよね。
そうなんですけど、あの日はものすごく痛くて、痛み止めを飲みながらごまかして投げてました。肘の不調は今までは無かったんですけど、ここ一年くらいで急に痛み出しましたね。

何か理由があるのではないですか?
練習量が圧倒的に増えたので、その影響があるかもしれないですね。

テイクバック
テイクバックについてですが、最初の始動に何かポイントはありますか?
特に意識はしてないです。構えたら自然に引ける感じです。

最終点の場所は決めていますか?
引き切る感じです。最後の最後まで、引けるところまで引いてます。

そのポイントを掴むまでに時間はかかりましたか?
頭の中で自然なテンポを作って投げてたので、それに慣れるだけでした。思ったよりも時間はかかってないですね。だいたい3日間くらいです。テイクバックに関しては自分の形が出来るのが早かったと思います。

スロー
スローについてはいかがでしょうか?狙う場所によって変えていますか?
腰の位置を変えますね。それからニュートラルにしている左足の幅を変えてます。幅を広げると低くなるし、狭くすれば上体が起きるので高くなります。上半身はほぼ変わらないまま、左右の足の距離を変化させて上下を狙い分けます。

なかなか個性的ですね。肩の位置は変えないのですね。
変えないです。変わってるのは左足だけです。

リリースポイントについては早く離す方が良いという意見となるべく長く持つという意見とありますが、それについてはいかがでしょうか?
僕はなるべく長く持っている方が、さらに技術が上がると思います。早く離すというのにも違いがあって、単純にただ早く離すのと、ダーツにちゃんと力を伝えてから離すのとでは全然違います。PDCの選手達のリリースは後者ですが、これはものすごい高等技術です。ダーツに早く力を乗せてリリースできるというのは、相当な技術力が必要だと思うのです。ですから長く持って最後でポンと狙えた方が、的に近いし余裕もあって有利だという考え方です。

ダーツを離す最終点の場所は一定ですか?
今そこの精度を上げている段階です。実は今特殊な勉強会というのをやっていて、コーチングしていただいてるんです。一日4時間くらいきっちり見てもらってます。

結構努力しているのですね。
周りの方々のおかげで勉強させていただいてます。

ダーツの飛び
ダーツの飛びは気にしますか?
めちゃめちゃ気にしてます。

きれいに弧を描いて飛んで行く人もいれば、バタバタ飛んでいってそのまま入る人もいますよね。
そうですね(笑)。やっぱりきれいに弧を描いて飛んでくれるのが理想です。特に出だしが上に向いていることを意識しています。
僕は身長が低いので、真っ直ぐド直球に投げると3ダブル辺りなんです。僕がベースで構える先にあるのが3ダブルなので、狙う場所は全部上にあるわけなんです。なので、矢が上を向いて飛んで行かないとならないので、まずはそれを意識します。それからきれいな弧を描くことを気にしますね。

回転はかけますか?
回った時はテンションが上がります。でも回そうとはしてないです。

無理にはしないけど回る時もあるんですか?
そうなんです。アップの時が一番回ってるかもしれないです。その時点で、リリースした時の指のインパクトが全然違う気がするんですよね。でもどうやったら回るのかを考えたらたぶん下手になるので(笑)、あまり追求しない様にしています。
きれいに回る人はカッコいいなと思いますね(笑)。

リズム
リズムについてはどんなところを気にしていますか?
リズムというのはルーティーンみたいなものですよね。強いて言えば全部気にしてるかもしれないです。煙草を吸うタイミングだったりドリンクを飲むタイミングだったり、試合の日は全部が気になりますね。

対戦相手によって投げるのがすごく早かったり遅かったりする選手がいますが、相手のリズムは気になりますか?
好きなのは早い方です。僕自信以前は遅かったんですけど、今はかなり早い方になりました。やっぱり同じリズムの相手の方が投げやすいですね。
すごく遅い対戦相手だった時の対処法を考えてる選手がいるんです。待っている間に一度フライトを外して付け直したりして、逆に相手を待たせてる状態にするそうです(笑)。

聞いたことあります。逆にイライラさせるとか(笑)。
そうです。みなさんいろいろ工夫してますよね(笑)。

ゼロワン/クリケット
では、ゼロワンとクリケットではどちらが好きですか?
その日によりますが、でもなぜかクリケットの方が勝てる気がします。僕の場合、クリケットは技術性が強くて、メンタルの強さや弱さが目立つのはゼロワンなんです。テクニックゲームとメンタルゲームというイメージですね。
僕が普段の生活でメンタルを鍛えるとしたら、どこかの神社に行って修行でもしないと難しいと思うんです。それもなかなかできないので、メンタルの向上はひとまず置いて、なるべくクリケットを投げて技術を向上させようと思っています。
勝率を上げたい時などは「クリケットがどうにかしてくれるんじゃないか」と、頼ったりしますね(笑)。

練習方法
練習方法について教えてください。
朝一番で投げる時は、ちゃんと構えないでただ腕を振ります。何も考えないで狙わないで、しばらく投げてから少しずつフォームを作っていくのがまず練習の入りです。それから飛びや、特にリリースを気にして練習しますね。
今は重点的に一本目の確率を上げる練習をしてるんです。一本目が入らなかったらナインマークもハットも出ないわけで、逆に一本目がトリプルに入ると攻め方が変わってきて、クリケットでは特に優位になれることが多いと思うんです。
一本目トリプルでプッシュできたから二本目クローズいって、相手の陣地を減らして終わらせられるという具合ですね。
一本目を上げる練習をする時はノートにその内容を書き留めています。20を20ラウンド、19を20ラウンドというふうに投げて、その中で1ラウンドの1本目に入った本数がどうか、例えば20ラウンド中に13本は一本目がトリプルだった場合は65%の確率、そのうちベットは7回でアベレージが6.85だったとか、そうやって分析して記録しています。

このノートはいつから始めたのですか?
今年からです。

それで上がって来ていますか?
上がって来てますね。やっぱり集中しやすいというか、普段の練習の質が圧倒的に上がった気がします。

この表を見ると20から15まで全部20ラウンドやって、まずファーストのパーセンテージを出してから全体のパーセンテージを出すという感じですね。
そうです。

時間はどのくらいかかりますか?
だいたい一時間くらいです。

毎日やるのですか?
週に一回です。毎週火曜日と決めています。

これが成績アップにつながっているのではないですか?
成績が上がった理由のひとつではあると思います。

身体のケア
では、身体のケアについては気にしていますか?
気にしてます。僕より先輩の方も多くいらっしゃる業界なので、年をとったというのは失礼な話になってしまうんですが、やっぱり年々気になるところは出てきますね。
僕の投げ方は腰に負担がかかりやすいので、先ほどもお話しした様に湯船に浸かって身体をほぐす様にしています。僕は末端冷え性なので、冬場は特に冷やさない様に気を付けています。

スピリット
スピリットについてですが、トップになると技術の差はほぼ同じで、勝ちたいという精神力のある選手が勝つと言われていますが、どう思われますか?
まったくその通りだと思います。一戦一戦「勝てる」と自覚することが重要ですね。勝てる人間というのは勝つメリットをよく知ってると思うんです。

どういうメリットでしょうか?
まず賞金もそうですし、とにかくダーツで勝ったらいいことがあると、潜在的に分かってる人間というのが勝てると思います。だから「勝った時こんないいことがあった」「嬉しかった」「気持ちよかった」というのを常に思い出しながら投げる様にしています。「負けたらどうしよう」とか、悪いことは考えないです。
昔はマイナスに考えることも多かったんですよね。特に入れ替え戦の時とか「負けたらやだな」「負けたら順位落ちちゃうな」とか。今はもうそういうことを考えるのはやめました。

大城選手はある時期から本を買いあさって、精神論についての勉強をしたそうですが、そういうことは何かしましたか?
僕の場合は3年間引退していたおかげでメンタリティが上がったと思います。ダーツとは関係のない仕事をして収入を得ることによって、今までどれだけダーツに恵まれていたかを自覚しました。ダーツじゃない仕事ってこんなに厳しいんだと痛感しました。
今こうしてダーツを仕事としていられることがどれだけ恵まれているか日々感じています。恵まれているんだからもっと頑張れるという気持ちです。
本も少しは読んでイメージトレーニングなどもやってみましたが、それよりは朝から晩まで働いた日常の方が、メンタルを上げてくれたと思います。

ダーツの魅力、これからの目標
改めてダーツの魅力とは何でしょうか?
人生を賭けて遊べるというのが一番の魅力です。リーズナブルだし、ゴルフなどよりも身近にあって、やろうと思えば毎日できます。今はプロという業態もでき応援してくれるスポンサーやファンの方がいるこのダーツ界で、人生を掛けて遊んで行きたいと思っています。

これからの目標を教えてください。
最近まで年間ランキング2位という今までにない成績にとまどっていました。でも考え方を変えました。来年もこういう位置にいられるという保証はありません。もし残り7戦全部勝てば優勝できるというこのチャンスは、もう二度と来ないかもしれない。だからこのチャンスにしっかり向き合って、最終的に大逆転して、年間一位を目指します!
プロじゃなくてもランキングを気にしている人もいると思うんです。そういう人達の期待に応えるべく、最終戦はどうなるか、最後の最後にどうなるか、というところまで行けたら面白いですね(笑)。頑張ります!