Vol.110 知野 真澄
数年成績が思わしくない

021年9月号

大会ができなくてファンの皆様には退屈な状況になってしまいましたが、動画の配信などもありますので、ぜひそちらでも楽しんでいただけたらと思います。また皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。

グリップ
グリップの最重要点はなんでしょうか?
多くのプレイヤーがバレルを実際に持ってる指は、親指、人差し指、中指の2本か3本で、それにガイドとして薬指などを横か上下に添えて支えるパターンがほとんどだと思います。僕の場合は中指を下に添える形で、調節が利くようにしっかり台座に乗せてあげることを大事にしています。

グリップに変化はありましたか?
グリップに関しては大きく変えた部分はないです。あえて変えなかったことが大きく調子を崩すことなく今までやってこれたポイントだと思っています。
微妙に変化した部分があるかもしれませんが、基本の形は変わってないと思います。その日の調子で浅めに持ったり深めに持ったりある程度調整できるようになってきたので、ベースの形は変える必要がなかったです。

ダーツを始めてからずっとその形を維持されているわけですね。
たぶんそうだと思います。一番最初に使ったのが長いストレートバレルだったので、その時は4本の指を使ってました。それから当時の一般的な長さのバレルを使い始めたので、自然と3本指に変化しました。そこから10年以上は基本のグリップは変えてないです。

他の選手のグリップは参考にしますか?
他のグリップも真似することはできるんですが、持ちにくかったり飛ばしずらかったりするので、結局は元に戻りますね。しっくりくるかどうかが一番大事なので、たぶん身体もその持ち方にしようとするんだと思います。

他の選手のグリップにも興味深いものはありますよね。
もちろんそうですね。まったく否定しているわけではないですが、僕の場合はいつもの方が調子いいなと思うだけです。実際に投げてみてもシュート力が変化するという感覚もなかったので、自分が持ちやすいのが一番だなというところに落ち着いてます。

毎日の感覚の違いがあると思いますが、そういう場合はどのように対処されていますか?
湿度の高い季節や乾燥している時などは、グリップ感や手離れが変化しますね。僕はバレルの形状もずっと同じ物を使ってるので、いつもと違うと敏感に感じるんです。乾燥している時は保湿させて、湿度が高ければタオルでまめに拭いて、なるべくいつものコンディションになるようにしています。それで対応できなかったら指先の感覚で調節します。
指の感覚を大事にしたいので、投げ始める前に指を軽く伸ばしたりしてストレッチをするんです。夜寝る前は少し強めに曲げ伸ばしをして、身体のストレッチをするのと同じように指のストレッチもしています。

立ち方
スタンスはどのように立ちますか?
オープンです。スローラインに対して45度いかないくらいです。垂直に立ったとしてちょっと斜めになるくらいで、45度から90度の間か、やや90度寄りです。つま先が前を向いている感じで真っ直ぐめですね。

それは右足ですか?
はい、右足です。左足は右足を決めた時に自然に立ってる位置なので、僕の場合はかなり左側になると思います。

結構開いて立ってるわけですね。
そうですね。左の肩よりも外側に開いてて、前に体重移動する時に少し後に引く感じです。想像しやすいのが『気を付け』『休め』の時に左足が自然に身体の横にきますよね。あの感じのまま前に体重移動していくと左足が勝手に後に引っ張られるので、その自然体な位置をキープしています。
左足はここ、と決めるのではなくて、まず右足を作ってスタンスを取ってからその時の状態で左足が決まる感じです。その日の身体の凝り方や柔らかさでまちまちだと思います。

左足の位置は明確に決めてるわけではないんですね。
左斜め後方というだけで、厳密に決めてはいないです。あとは台と台の間隔によって人の流れが違うので、それに左右されない位置に持っていくようにもします。僕はスローラインの左側に立つので、左足が隣の台のプレイヤーに影響しないようにしています。

スローラインに対して左側に立つのには理由があるのですか?
いくつかあります。僕は投げる時に右腕を真っ直ぐブルの前に置いてるんです。右腕というか右肩ですね。それでそのままセッティングをして、右腕が引っ張られないところに立とうとすると自然に右足を左寄りに置くことになるんです。これで左側に立つようになったのがまず大きな理由だと思います。
それから、当時投げ始めたお店の間取りなんですが、ダーツの右側が通路だったこともあってなるべく邪魔しない様に左側に立ってたんです(笑)。こういう投げ方や環境によって今の位置に落ち着く結果になりました。

それがずっと今まで続いてるのですね。
そうですね。でも前のダーツが上に被ってたりするとどうしても移動しなくてはならないので、絶対にそこじゃなければだめというわけではないです。ただ長いことその形を取ってるので安心感があるんですよ。構えた時の景色も同じなので、今でも左側に立っています。

狙う場所によって立ち位置は変えますか?
基本は変えません。以前ワンシーズンかツーシーズンで変えてみたこともあったんですけど、結果はあまり変わらなかったですね。今は一投目、二投目のダーツが邪魔な時だけ変えます。

立った時に右足は真っ直ぐにしていますか?
はい、真っ直ぐです。

柔軟性を持たせたりもしてないんですね。
そうですね。曲げたりするとホールド感がないというか腰が座らないというか、投げた瞬間にジャンプしちゃうんです。それだと脚が疲れてしまうので緩めたりはしないです。突っ張るほどの力は加えてなくて自然に真っ直ぐ伸ばすイメージです。

左右の足の力配分はどうでしょうか?
100パーセント右足です。

左足は添えてるだけですか?
はい。バランスを取ってるだけと捉えていただければいいと思います。実際は95%か90%なのかもしれないですが、ほぼ右側に全体重をかけて左足はバランスを取るだけというイメージです。

そうすると右足が疲れないですか?
それが、そんなでもないんです。家に帰ってきた時に初めて疲れを感じるくらいで、きっともう慣れてるんですよね。逆にバランスを取ってる左足の方が凝ってるかもしれないです。整体に行くと治療されるのも左足です。足の裏は右足の方が痛くなったりするんですけど、左足の方が疲労感は強いです。

予想以上に左足を使ってるということなんですね。
体重移動やバランスを取るために、左足が制御してくれてるんだと思います。

バランスはすごく大事だと思いますが、立っている時に特に意識していることはありますか?
相手が投げるのを待ってる時は、意識して左足で立つようにしています。投げる時はずっと右側にばかり体重を乗せてしまってるので、ただ立ってるだけの時はそうやってバランスを取るようにしています。


次は肘についてお聞きします。まず構えた時に右手はどの高さにありますか?
手首から上が右の頬にくるくらいの位置です。

ダーツはやや目の上にあるということですね。
上ではなくて目の真正面、右目の前かちょっと下くらいです。手の指が頬にくるくらいの構えですね。一般的な位置だと思います。

これは以前から変わりましたか?
昔の映像などを見ると以前はセットアップ位置がかなり前だったんです。それからだんだん後に下がってきて、完全に目の前にセットしている時もありました。
今はその中間まではいかないですが、極端に目の前にあった時よりも15cm〜20cmくらいの位置に落ち着いてます。これも一般的な形を取っていますね。

それは大きな違いだと思いますが、何か理由があったのですか?
動く範囲を小さくしてみたかったんです。動けば動くほどぶれる箇所が増えるので、動きを小さくした方がぶれ対策になると思ったんです。それでセットアップ位置を身体の近くに変えたんですけど、極端にやりすぎるとリズムが変わってしまうというデメリットがあったんですよ。調子の善し悪しがかなりあるなと感じて、リズムが取りやすくなるようにまた変えていきました。
セットアップ位置に関しては、狙い方もあると思うんですけど、僕はどちらかというとリズムかなと思っています。

構えた時の右肘は固めていますか、それとも緩めていますか?
固めなさいと教わったので今でも固まっている様には見えるかもしれないですが、実際はそこまでがっちり固めてはいません。固めない方が飛ぶ感覚があったので、遊ばせてるわけではないですけど、ホールドしてないというのが現状です。
一度肘を痛めたことがあるので、固めるのは自分に合わないと感じました。ホールドさせると良くないということに気づいてからは、とにかく楽な位置に置くことにしました。それがもう十数年続いています。

肘を痛めた時の状況を教えていただけますか。
ダーツを始めて2年くらいの時ですが、肘に痛みを感じたんです。最初に教えてもらった通りに肘を動かさない様にホールドさせて投げていたら、肘にすごく負担がかかってたんですね。それを続けていた結果悪化させてしまいました。練習のし過ぎと、当時は整体などにも行かなかったので、それも大きな原因だったと思います。

肘を痛めてる選手は多いですね。
何度も何度も肘を動かす競技なので、たとえ身体に合った投げ方をしていても、どうしても小さい負荷が蓄積してしまうと思います。無理をして固めたり動かしたりすると、負荷の溜まり方が大きくなるんじゃないでしょうか。

テイクバック
テイクバックについてですが、最初の始動はどのようにしていますか?
セットアップをして引いてくる時に、フライトが右側の頬か口の端あたりにくるようにセットします。僕の場合はセッティングが短いので他の人とは少し違う感覚かもしれないです。かなり深めですね。

引くタイミングというのはありますか?
後で待っている段階で狙う場所は決まっているので、立ってからは早いと思います。スタンスを取ってじーっと狙ってということはしないで、スタンスを取ってセットアップしたらそこから『いち、に、さん!』という感じですぐ投げます。立った時が1で2で引いてきて3で出すという形ですが、だいたい1秒から2秒くらいだと思います。

ユーミングしたりもしないですか?
1の段階で少し前に出す様な動作はします。ワンテンポ置くというか、前に出すデモンストレーションみたいな動きですね。

選手によっては真っ直ぐ直線に引いてくる人もいますが、知野選手の場合は肘を始点にして手を回して右の唇のところまで円運動で持ってくる感じですね。
そうです。ですからそのまま引き続けると、手が肩の方にまでくる感じですね。実際は肩まではいかなくて、円運動の中間くらいでしょうか。
周りから見ると円には見えないかもしれないですけど、僕自身は肘を始点にして弧を描いてるようなイメージです。

テイクバックの最終点についてはいかがですか?
最終点は結構変化しています。右の頬でも口元に近かったり少し目尻の下の方だったり、大きい範囲ではないですがその幅で変えています。それから高さもフライトの位置が目の下にくるようにすることもあります。

完全に決めているわけではないんですね。
はい。その日の調子で微妙にコントロールしています。現在は口元でほぼ出来上がってるんですが、そこをベースに調子によって少し高めにしたりする感じです。
昔からフライトが顔の中に収まる様に引いてました。今はマスクを付けてるので多少変化してるかもしれないですね(笑)。

その数センチの間で調整してるんですね。
そこに少し遊びを持たせてると思ってもらえるといいかもしれないです。

必ず同じ場所に当てるという選手もいますよね。
僕の場合は当たる時もあるし、当たらない時もあるんです。どちらかというと当たらない方が正解なので、当たる場合は調整し直します。
ただどちらも、入る入らないにはあまり関係なかったりするので、実際はあまり気にしません。すごく気になる要因であれば当たらない様に調節するんですけど、何百投あるうちのたまたま何回かというレベルなので、それくらいは許しちゃいますね。

スロー
次にスローについてですが、リリースポイントは早い方ですか?遅い方ですか?
離し始めるのは早いですが、離したい場所は中間くらいかセットアップした場所ですね。セットアップした場所で離し切りたいので、セットアップした位置より前から離し始めているイメージですね。

以前はダーツを最後まで持って腕を真っ直ぐ伸ばすというのが主流でしたが、最近は早く離して手を振り切りたいという選手も多いです。それについてはいかがでしょうか?
僕も早く離して手を伸ばさず振り切る投げ方です。投げ始めた頃は、腕を前に残す感じで伸ばし切りなさいと教えられたんですが、上手くできなかったですね。それで肘を痛めたというのもあるので、手を返す形に変えました。
合う合わないもあると思いますが、僕の場合は早い段階で肘を痛めたので、離した後は伸ばし切らないでそのまま下に下げてくる投げ方になりました。前に力を残すのではなく、下に逃しちゃう感じです。

PDCの選手は早く離す選手がほとんどですよね。乱暴に投げ切ってる感じですね(笑)。
結構そういう選手が多いですよね(笑)。

最後の手の形は気にしていますか?
気にしてません。ソフトのマシンは最後の形をリプレイしてくれるじゃないですか。それを見ていつも通りのフォロースルーになっていればOKです。

具体的にはどういう形になってますか?
右側に返し切ってる形です。多くのプレイヤーは指先が床に向かってると思いますが、僕の場合は斜め右側に向いてるんです。ちょっと払ってる感じで、正面から見るとハの字みたいに見えると思います。ストロークがいつも通りであれば、こうなる確率が高いです

ダーツの飛び
理想の飛びはどのような形ですか?
真っ直ぐではないですが、あまり弧が大きくならない形です。放物線を描き過ぎない様な形が理想です。
僕のセッティングは短くてフライトも小さいので、放物線を描き過ぎてしまうと空中で安定しないんです。ある程度力を乗っけてあげて直線的に飛ばすのが理想です。ただあまりにも直線を意識してしまうと強く飛ばし過ぎるので、必要以上の力が腕にかからないように意識しています。

最初からそうですか?
昔の方がもっと直線的に狙ってました。本当に始めたばかりの時はふんわり投げていましたが、ある程度狙える様になってからは直線的に飛ばすことを意識してました。これも肘を壊した原因のひとつかもしれないです。今でも基本的には直線的ですが、昔よりも少し力が抜けた形です。

あまり思いきり投げ過ぎると怪我につながってしまいますからね。
そうですね。今はケアもしっかりしてるので、多少強く投げても痛みや怪我に直結することはないと思ってるんですが。

ケアというのは具体的にどのようなことをされているのですか?
毎日のストレッチはかかさないですし、もし少しでも違和感があったらすぐに冷やすようにしています。それから寝る前には温めたり、他のスポーツと同じようなケアの仕方を教えてもらって実践しています。

練習の後も冷やしたりするのですか?
よっぽど長く投げたり何か違和感があるときは冷やします。そういうことが特になければ、ただストレッチするだけですね。

ダーツプレイヤーもケアが大変ですよね。
長く続けるといろいろ蓄積がありますよね。初心者の人には「痛くなると投げたくても投げられなくなるよ」と、そうならないようにしっかりケアすることを勧めてます。

ダーツの回転は意識していますか?
特に気にしてないです。意識してかけているわけではないですが、勝手に左回転しているようです。

どのくらいの回転でしょう。
クルッと一回転するくらいです。回そうと思えばクルクル回すこともできますが、これも入る入らないに関係なかったのであえてかけません。いろいろ試してみたんですが、自然に一回転するくらいの方がしっくりくるんです。

リズム
リズムについてはいかがでしょうか?
リズムとしては結構早めのテンポをとっていると思います。一投のリズムというよりは、三投まとめてのリズムがベースです。ですから途中でそれを断ち切られたりすると、調子が狂ってしまうこともありますね。
ベースは早めのテンポで、集中してゆっくり狙わないとならない時などはそのリズムを少しゆっくりに調整しますね。刺さり方によって立ち位置を変えるなどイレギュラーなものも必ずあるので、そういう時は一投のリズムに自然と切り替えて投げています。

投げ方の速い選手や遅い選手がいますが、どのように対処していますか?
ゆっくり投げる相手の時はいつも通りですが、テンポよく速く投げる相手だとそれに合わせて速く投げます。僕もテンポよくポンポン投げるタイプなので、そういう対戦相手の方が乗るんですよ。だから相手の速いテンポにどんどん付いて行くようにします。ただそういう時は乱暴な投げ方にならないように注意していますね。

遅い対戦相手は大変じゃないですか?
最初は慣れるのが大変でしたが、最近は対応できるようになりました。ゆっくり投げるプレイヤーも増えてきたので、だいぶ慣れましたね。

ソフトではゼロワンとクリケット、どちらが好きですか?
長い時間やり続けるとなると、ゼロワンの方が好きですね。昔のPDCの映像を見ていた影響もあると思うんですけど、長い時間精度を変えずに同じ場所に入れ続けるという勝負の方が好きです。もちろんクリケットも戦略的な面白さがありますけどね。

ソフトとスティールの違いは感じますか?
昔から違いはあまり感じません。でもここ最近は日本人のレベルがものすごく上がってるので、スティールにはスティールの練習が必要だということを痛感しますね。ソフトの延長線上では通用しなくなってきていると感じます。

確かにレベルの高い試合が増えてますよね。
そうなんです。正直、もう置いて行かれてるなと思ってます(笑)。アベレージもすごい選手がいますよね。もっと頑張らないとだめですね。

では最近はスティールの練習にも力を入れてますか?
FIDOの予選でカウントアップをするので、自然とスティールに触れる時間が長くなってきたかなというくらいに留まってます。この状況でリーグ戦がないというのも大きいですね。最近久々に投げてみて、だいぶ感覚が変わってるなと感じることも多かったです。

スピリット
メンタルについてはいかがでしょうか?
メンタルというのは慣れだと思ってます。例えばピリピリした状態の試合だったり、逆に緩んだ試合だったりいろいろありますが、それを経験することによって持ち直し方がわかってくると思うんです。様々な場面で対処していくことによって慣れていくことがメンタル的に重要なんです。
ただ、慣れきってしまうのもよくないので、常に挑戦する気持ちを忘れないことが大事です。挑戦し続けながら慣れていくことによってメンタルが鍛えられると思います。

いろいろな場面を経験することによって、メンタルのコントロールができるようになるということですね。
良くも悪くも経験を積むことで「こういう時はこうする」と、引出しが増えると思いますね。気を付けたいのは「こうしなければいけない」と決めつけることはデメリットになってしまうので、柔軟性を持たせることも大事だと思います。
「緊張した時はどうしたらいいですか?」と質問されることがあるんですが、「とにかく慣れること、そうすれば対処法がわかってくるから」と答えています。

今までで一番緊張したゲームなどありますか?
Dクラウン仙台の橋本選手との最終戦です。クリケットの最終レッグだったんですけど、19、18、17、16のベットで、最後は15で閉じたんです。あの時ちょっと覚醒したなと思いました。

勝敗は?
負けてしまったんですけど、この試合の印象が強いです。ものすごく緊張してたのを覚えてます。

読者にメッセージをお願いします。
ここ数年成績が思わしくないのですが、またいろいろな場面で顔を出したり映像に出る機会があると思うので、それに向けてしっかり頑張っていきます。
大会ができなくてファンの皆様には退屈な状況になってしまいましたが、動画の配信などもありますので、ぜひそちらでも楽しんでいただけたらと思います。
また皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。