Vol.111 荏隈 秀一
試合に向けて集中力を高める

2021年11月号

僕より技術的には高いプレイヤーが多いと思いますが、それでも優勝できたりします。
緊張とかはありますが、試合に向けて集中力を高めるようにしています。
そして気持ちを冷静に保つようにしています。熱くなって空回りしたことは無いですね。

グリップ
グリップの最重要ポイントは何でしょうか?
単純だと思うんですが乗せるだけ、グリップを作らないことだと思います。僕の場合グリップというよりは肘の先に乗っているというイメージなんです。挟んでいるように見えますが意識は指にバレルが乗っているという感覚です。楽な場所を探して乗せて全く力は入っていません。

ではかなりゆるく持っているんですね。
元々からそうです。最近調子が悪かったんですが、その原因はグリップを型にはめて持とうとしていたからだと思います。

投げ始めた当初と比べるとグリップは変わりましたか?
どうでしょうか。ほとんど形は変化していないように思っています。ここ最近2年ぐらいイメージが悪かったのですが、だいぶ戻ってきています。

コロナで新しい試みなどはありましたか?
長い期間うまく投げれていなかったんです。そこでさぁ試合が始まるぞ、となって今もう一回初心に帰って前はどんな風に持っていたのか、投げていたのかレーティングが低かった頃のことを思い返しています。今はそこからもう一度作り直しています。

他人のグリップを参考にしたり研究したりしますか?
全くしていないです。自分の昔の動画のグリップを参考にしています。人によってダーツを飛ばすイメージは全然違うと思うんです。その人なりのグリップがあると思いますね。目に入る程度で参考にはしていません。

その日のコンディションで当日に合ったグリップを探しているプレイヤーが多いようですが、いかがですか?
それはあります。僕の場合はイメージしやすい指の場所を探します。けっこう時間がかかりますね。ジャパンの試合とかは朝から投げ続けて、入れ替え戦の手前でやっとしっくりくるような感じです。その時でも完全ではなくて、仕方なく腹を決めているのかもしれないですね(笑)。朝一からほぼぴたっと来る日は無いです。

季節によって滑り止めなどの対策は何かされていますか?
僕は乾いている時の方が好きなんで、冬はいいんですが、夏はめっちゃ手やバレルを拭いています。動画で見るといつもタオルを使っていますね(笑)。

立ち方
スタンスはどのように構えていますか?
平行が90度だとすると70度ぐらいでしょうか。構える時は左足で軸を作って、それから右足を決めて立つのがルーティンです。右足のかかとをブルに合わせています。

なぜそのようなルーティンになったのですか?
僕の場合左足を強く意識しないと、前に突っ込む癖があるからです。プロになる前からそうしています。バランスを大事にしているからです。

両足の加重配分はどうですか?
7:3ぐらいで左足も重視していますね。

投げる時に立ち位置を頻繁に変えるプレイヤーとできるだけ変えない人といますが、どちらですか?
僕は変えます。前のダーツが気になったらすぐ変えますね。

右足は立った時は真っ直ぐですか?
自分では真っ直ぐなつもりなんですが曲がっているようです(笑)。少し柔軟性を持たせているんでしょうか。
左足で立って右足は添えている感じで説明が難しいですが、やじろべえみたいなイメージのバランスです(笑)。


次に肘の位置ですが、構えた時にダーツはどの辺りにありますか?
今は目の前か下になるようにしています。長いダーツ歴の中で勝手に変わってきています。最近は投げ方が良くなかったんですが、いつの間にか高くなっていましたね。本当は低い方が良いと思っています。
僕の場合はダーツを下から上に飛ばすイメージなので、上にあるとそれが出来ません。もう一度回帰して、しっかり下から打ち上げるように練習しています。

構えた時の肘は固めていますか?それとも緩めている方ですか?
肘は動いても良いと思っているので、緩くしています。肘よりもテイクバックした時にグリップとダーツの向きが合ってないといけないので、力が入らない引き方をして肘の位置はその日のコンディションによると思っています。
僕は落ちながら少し内に入っていますね。肘はむしろ楽に自由に動かしたいです。

肘や肩を痛めるプレイヤーは多いですが、何か特別なケアはされていますか?
僕は怪我をしたことが無いので何も特にはしていません。整骨院には行きますが、今までに問題にはなっていないです。以前からあまり身体に負担にならないようにと考えてきたので、それがうまくいった結果なのかもしれません。
一度だけ肩が痛いときがあったのですが、すぐに投げ方を変えました。無理な投げ方をすると怪我すると考えています。そうすると結果も良くなっていることが多いですね。プロダーツプレイヤーとしては本当に気を付けなければいけないことだと思います。

テイクバック
次はテイクバックについてですが、最初の始動はどうしていますか?
僕の場合、前に2回ポンポンと出してリズムにしていますが、始動のイメージは肩です。肩で引いて肩で投げています。肩を使うには肩甲骨が必要と言われるんですが、よく分からないので肩にしています(笑)。手や腕で引くのではなくて身体全体で引いて投げることを意識しています。

最終点は決めていますか?
それも肩に引いてそれを戻していく感じです。最終点も特に明確には決めていません。周りの人にはある場所に引いている時は調子が良いよね、とか言われるんですが自分では意識していません。

スロー
リリースポイントが早いまたは遅いプレイヤーなどいますが、どちらのタイプですか?
早い方だと思います。リリースが遅い時は調子が悪い時ですね。元々指を使ってしまう悪い癖があって、リリースを早くすると指が使えないのでそうしました。それで意識的に早くとは思っています。

以前から早いんですか?
ある程度上達してからは、たぶん早いですね。だんだん早くなって、結果も上がって来たという感じです。出来るだけ奥でリリースするプレイヤーもいますが、僕は身体の近くで力を発生させたいイメージです。

ではスローしていく手はどうなっているんですか?
下から上に投げていくので、手は勝手に前に伸びていくんです。下には行きません。

投げ終わった後の手はどんな形ですか?
親指が狙ったターゲットに向いています。それを意識し始めたのはたぶんレーティングが13ぐらいの頃だったと思います。バレルを挟むと指に力が入るので、始めた時からグリップは緩くと意識していました。
ジャパンで上位で活躍していた頃はそれが完成形に近かったと思います。今凄く調子が悪くて、マジでヤバイんです。数字でも顕著にかなり落ちています。01は今118ぐらいですが良かった頃は134だったので、16落ちていて深刻です(汗)。
理由は明らかにグリップですね。2018年の途中から親指がテイクバックするとプルプルするぐらい張るようになってきていて、少しは改善したんですが、それでもまだ手探り状態です。張るというのは親指の付け根がつりそうになる感覚ですが、知らず知らずの間にグリップ圧が上がっていたんだろうと考えています。そうすると投げ方も変わってしまって、良くない方向に行ってしまいましたね。

ダーツの飛び
次は飛びについてですが、理想的な軌道はどのような形ですか?
山なりで最後にブルを上から撃ち落とすようなイメージです。下から上に向かって飛んで頂点から落ちた場所がブルという軌道です。僕は身長が180㎝あるので、下から上に投げるのは難しんですがそれを思い描いています。
飛びは矢先が左右にぶれないで、ダーツがずっと地面に対して平行に飛んでいくイメージです。フィル・テイラーはそんな飛びですね。

では、ダーツの回転についてはいかがですか?
全く意識していないです。見た目での理想は無回転なんですが、僕の場合は左回転していて勝手にそうなっています。

リズム
ではリズムについてはいかがでしょうか?いろいろなリズムがあると思いますが気にされていますか?
あまり意識していないですね。早くなり過ぎないぐらいでしょうか。3本リズムよく投げる方ですが、それは経験で培ったものだと思います。ステージで相手とスイッチする時に多少気にする程度でしょうか。

対戦相手のテンポは気になりますか?
整理できる前に回ってくるので、早い人は苦手ですね。僕は試合中けっこういろんな事を考えているんです。あっ、企業秘密話しちゃった(笑)。

どんな事を考えているんですか?
例えば攻め方とか、さっきのラウンドでブル入っていたけど感覚悪いなぁ、何でだろう、などですね。僕にとっては待っている時間はとても大事です。特に調子が悪い時には余分に一拍置きますが、それでも2、3秒の違いでしょうか。

スピリット
スピリットについてはいかがでしょうか?試合では最後に残ったメンバーはほぼ実力は同じで、優勝するにはメンタルの力とか言われていますが?
僕もそう思います。僕より技術的には高いプレイヤーが多いと思いますが、それでも優勝できたりします。気持ちを強く持って戦っています。緊張とかはありますが、試合に向けて集中力を高めるようにしています。そして気持ちを冷静に保つようにしています。熱くなって空回りしたことは無いですね。

ゼロワンとクリケットはどちらが好きですか?
お~、微妙な質問ですね。今は調子悪いのでどっちも嫌いです(笑)。普段はどちらも一緒でしょうか。

スティールは投げますか?
ほとんど投げないですね。ソフトも出来ていないのにスティールもとなるとあまりにもたいへんです。

コロナ禍になってどうしていましたか?
モチベーションとか下がっているつもりは無かったんですが、いざ試合が近づいたらめっちゃ投げるようになりました(笑)。以前のようにカリュキュラムを決めて確実にこなすようにしています。試合に合わせて1ケ月前にはここから始めて、最後の1週間はこの課題に挑む、みたいなスケジュールですね。

具体的にはどんなことですか?
言葉で言うのは難しいですが、まずグリップから取り組みました。楽に投げるために親指に載せるためです。今まで挟んで持っていたんで載せる感覚に馴れるために数日かけて、それが出来るようになったら、腕やスタンス、軸をつくる練習に移ります。それを今、日々繰り返しています。やっとスタンスまで辿り着きました。

読者にメッセージをお願いいたします。
ジャパンが試合スケジュールを発表していよいよ再開されます。準備とかはどうでしょうか?
まぁ、結果はどうなるか分かりませんが全力で調整しています。2019年は年間ランキング5位でしたが納得できる年ではなくて、思った以上に上位に入った印象です。きっと周りが警戒してくれたお蔭かもしれないですね。固くなってくれたりしたんじゃないでしょうか。
2回優勝できているので、良い時もありましたが通年では完成度の低い年でした。

理想が高いですね。
そういう訳ではなくて、動画を撮って見てみると納得できるフォームじゃないんですよね。これじゃ通用しないな、と思っています。理想が高いというよりは、自分の思い描くダーツを100%出し切りたいんです。自信を持って試合に臨みたいからです。

それでは、これからの目標や夢を教えてください。
まず目先の目標はジャパンのステージ優勝ですね。夢は新しいお店を持ちたいなどいろいろあります。でも何と言っても、この人のダーツは本当に楽しいと思っていただけるプレイヤーになることですね。パフォーマンスが出来るプレイヤーがいいです。

最後に読者にメッセージをお願い致します。
今年は選手会長なのでその仕事も頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。