2016年7月
「このバレルに合うセッティングはなんでしょう?」と聞かれることが本当に多い。
大体は「いや、フォームを見てみないとなんとも言えない」と返すのですが、あまりにも執拗に聞かれた場合には「僕ならばこういうセッティングにすると思う」と返すのですが、これは飽くまでも僕が投げる場合であって万人に合うとは思えない。
では、セッティングとはなんであろうかという答えは「その人のパフォーマンスが最大限に発揮されるであろう用具のセレクト」であるわけですよね。
なので、その人それぞれでセッティングは変わりますし、誰でも最大限のパフォーマンスが発揮出来るであろうパーフェクトセッティングなんてものはないと思っております。
ではそもそも、セッティングとは何を基準に求めていけば良いのか?という設問になりますよね。
これ、「バレルの存在意義」をその人それぞれで捉え方が違いますのでこれも正解がない。ただ、僕の考えというか所謂「綺麗に飛ばしているなぁ」と評価されている人が行っていることが、必ず共通しているんです。それは「バレルでシャフトとフライトを引っ張っている」こと。
例えば、昔駄菓子屋に売っていた発泡スチロールで作られた飛行機のおもちゃを想像してみてください。
綺麗に飛ばそうと思っていると、飛行機の最後尾まで意識して(又は無意識のうちに)丁寧に飛ばそうとしています。この意識が希薄であると飛行機は綺麗に飛ばない。更にはその飛行機の限界スピードを把握していないと、変な飛び方をしてしまうのですぐに「あ、それは出力が強すぎるのだな」と認識出来る。
これをダーツに置き換えると、ダーツはある程度無理なスピードでも「綺麗に飛んでいるように見えてしまう」ことと、それ以前に「ボードを見すぎている人が多い」ことで、視界に入りにくいというか視界には実際に入っているんですけど、認識しづらいんでしょうね。
でも、ずっと昔からダーツは、いやいやもっと絞り込むと「フライトは限界や異常を所有者に伝えている」んですよね。
どうしても、バレルに力を加えて飛ばそうと思うと、その後ろのシャフトとフライトに意識がいかなくなり、挙げ句の果てにはバレルをしっかり握らなければ飛ばないという恐怖観念に囚われて、グリップやグリップイップスを誘発する原因になってしまう。
筋肉的な異常じゃないかとか、精神的に何か問題が起きているんじゃないかと心配されますが、単純に「何を自分は投げているのか?」ということを冷静に思い返せばあっという間に治ってしまいます。要はイメージの仕方を変えるだけで変わるということです。
ダーツ全体を飛ばそうとするのもよし、それが意識出来なければ「フライト=小さな紙飛行機」として考えてみてください。
そう考えると、バレルは飽くまでもその最後尾についている紙飛行機を正しい飛行ラインに送り出すための「取っ手部分」でしかないわけで、バレルは巷で大騒ぎされているほどの重大な何かがあるわけでもない。
「最後尾にあるフライトを、テイクバック最下点時に作られるシャフトの角度に沿って、バレルという取っ手を使って引っ張って送り出してあげる」と考えれば、ここで初めてそれぞれのダーツセッティングの構成物に意味が出てくるわけで、多くのプレーヤーはバレルだけに固執するあまりに、他の構成物をおざなりにしているというか、仕事をさせていないと感じます。
こう考えていくと、チップは弾かれるミスを限りなく失くしてもらうために選び、シャフトは引っ張りやすい長さをセレクトし、フライトは引っ張りやすい空気抵抗と、投げ出された後に目で追いやすいスピードで飛んでくれること。そしてそのシャフトとフライトを引っ張る時に滑ったり力を乗せにくかったりするのを解消するためにバレルを選ぶ。
バレルの変更だけで結果が良くなるのは「新車効果」だったり、たまたまのことが多いんです。
もちろん、そのたまたまを何回も繰り返していれば「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」状態で見つけることは出来るとは思いますが、根本的に「ダーツに仕事をさせて、コントロール性能を上げる」ことにはなりませんし、自分がちゃんと「道具」を操る実力がいつまで経っても向上しないというわけです。
正直に申しますと、トッププレイヤーだって完全に道具を使いこなしている、又は理解してうまく使っている選手というのは両手で十分かもと思うくらい少ないです。これはバレルデザイナーにも言えることですけど…。
フィジカルを意識するあまりに、「ダーツは道具を使いこなすスポーツである」ということが忘れられてきていますよねぇ。
道具が器用に使いこなせれば、誰でもそこそこグルーピングもしますし上達も一気に向上します。どうしても、動きに目がいってしまうのは指摘するのが簡単で、わかりやすく形が変わったように見えるからだと僕は思っています。
僕自身も最初はフィジカルを覚えてもらうようにしています。そして、「フォーム+空間イメージ(道具の使い方)=結果」というようにその人のダーツを作ってもらうようにしています。でも、常にバランスを考えていないとダーツ自体がつまらなく感じてしまったりと悪循環なので、道具の使い方と空間イメージを養ってもらうようにしています。
ここでいう空間イメージという言葉を誤解されるといけないので補足しますと、空間イメージとは「実際に飛んでいる時にフライトが作り出す残像」を把握することによって、空間イメージが苦手な方でも「実態」に目を向けてもらうことで空間にどうやってフライトの軌道(残像)を残せばいいのかを「実際に目で見て欲しい」ということです。
これは一所懸命見ようとしていると、実際に飛んでいるものですから目で追えるようになりますし、コントロール技術が格段に向上します。
さて、ここまで僕の提案を読んでもらって「では自分のセッティングはどうなんだろうか?」と考えてみて下さい。
理論や自分の考え方なんて色々あっていいんです。フォームやセッティングは無限にあるかもしれませんが、道具の使い方はそんなに多くないんですね。これから先に、色々なバレルが出てきてフライトやシャフトの形が変わったとしても今の構成物である限りは。
ダーツはフライトを引っ張っていくもの。これだけでも一度試してもらえると嬉しいと思います。